星の水辺のタマコチラ
横浜流人
第1話 水辺のタマコチラ
僕、御崎 勇樹(ミサキ ユウキ)、小学6年生。東京都心から、ここ多摩地区、武蔵野の森の中に、引っ越して来た。この森は、古代より何でも受け入れてくれたのだった。
僕は、窓辺の自分の部屋にこもり、この森を眺めている。
先ほどから僕は、何かの視線を感じている。誰かにジッと見られているような、そんな気がしているのだ。
「誰?何?僕、見られてる?」
と、思ったその次の瞬間、目の前の棟の左側に位置する、森の中で一番まっすぐで高い木のてっぺんに、視線を感じた。
「いた!」
僕と同じくらいの子供である。が、着ている物は、白い、修験者、行者のような羽織と袴だ。顔は鼻が異常に長く、目は大きく、吊りあがり、黒い色の嘴?のようなマスク?をしている。背中には、大きな鳥のような巨大な羽があるのだ。
「カラス天狗の子供?」
と僕は思った。何かのマンガか、ゲームで見たことがある気がしたのだ。
そして、僕は彼と目が合った!と思った次の瞬間、彼は飛び去り消えた。
次の日も、僕はまた、彼を見かけたのである。今度は、向かいの
次の日も、僕は彼を見かけた。鳥のカラスと電線の上に止まっていた。下駄履きなのに、器用に電線に止まっている。
そして、次の瞬間、彼は、僕の部屋の前のベランダに素早く飛んで来た。僕は、心臓が止まるか?と思われるほど驚いた。彼は、ニコッと笑いながら、俯きながら自己紹介を始めたのだ。
日本語だ!よかった。話せばわかる。
カラス天狗の彼は、ゆっくり話し始めた。
「僕の名前は、てんてん、少し前から、この森に住んでいる。君たち人間は、僕らのことをカラス天狗、と昔から呼んでいるらしいね?」
次は僕の番である。
「僕の名前は、ユウキ。小学6年生。2か月前に、この地域の小学校に転校して来たんだ」
挨拶を交わして、やはり昨日と同じく彼は姿を消した。
それから、毎日、てんてんは、僕の部屋の前のベランダに現れるようになった。
てんてんは、僕と一緒にオヤツを食べるのがトッテモ楽しく、幸せだと言う。特に、レモンティーと、ママが特売で買い占めてくるロールケーキがお気に入りらしい。
ある日、てんてんは、ぼくを外に誘った。
「電車で、湖に行こうよ。そこ、気持ちいいよ⁉」
僕たちは、電車を乗り継いで、多摩湖という人口湖に行く。この湖は、大正から昭和初期にかけて、東京の飲み水確保の為につくられたダム湖だ。湖の底には、他のダム湖と同じく、川沿いにあった村が湖の底に、沈んでいるという。
陽が落ちる夕暮れ前、僕は、ボーっとして、ふと隣を見た。そこには、見たことも無い、いや、漫画の世界では見たことが有るかもしれない、子泣き爺の様な、お地蔵さんの様な伯父さんが座って、僕と同じように湖面を眺めていたのだ。
お地蔵さんは、
「こんにちわ?ココは、いい眺めじゃろ?」
と、僕に微笑みながら話しかけてきた。そして、僕とは反対側を向いた。そこには、河童が居た。そして、大蛇がいた。
河童は、僕に言う。
「僕たち、コノ湖の底に沈んだ村に住んでいるの。僕の名前は、萬(まん)、てんてんの友達」
そして、お地蔵さんは、静かに語り始めた。
「ワシのことは、昔からここら辺の人々は日照坊(ひでりぼう)と呼んでおる。雨を降らさず、晴の日にする祈祷師としてワシは生み出された。村の人達は、雨が降らないと作物が出来なくなる。天に雨乞いをして、天上の神々が、雨を降らす。ワシは、晴の祈りを天に届けるための地蔵、今ではテルテルボウズとか云われる物をセッセと作らされた。人の子を石の地蔵に変えて、神社に祭っていたんだ」
と言い、
「神社は、今では、この湖の底に沈んでしまったが、この辺の子供の千人以上は、ワシが、石の地蔵に変えたかのう、ワシの生みの親の神様は、天上の神々が、雨を降らすことに腹を立てて、急に天に帰られた。私はここに残された。それからは、地蔵を作る必要もなくなったという訳」
そして、大蛇を指さして、僕に語り始めた。
「アッ、それから、こちらは土蛇様じゃ。大人しくて優しいのに、見た目で誤解され、ワシが地蔵にしてしまった子供たちは、(全てこの土蛇が食ったのだ)と、村の人々は誤解して、悪い妖怪扱いされていた。都から来たという陰陽師に、今では湖に沈んだ神社の隅に、生き埋めにさてたんじゃ。その上に大きな石の蓋を被せられた。そこを、この湖に引っ越して来た河童たちが、助け出したんじゃ。この大蛇は気のいい神様だ。やはり大神様の分身としてココにいらした。今では、この土蛇様を見かけた人は(多摩湖のタマコチラ)と呼ぶらしいヨ」
タマコチラは、僕の方に顔を向け、コクリと挨拶したような感じがした。
(優しい神様なんだ)
と、僕も、頭を下げて挨拶をした。
タマコチラは、僕の方に顔をス~ッと近づけて来て、長い舌で僕の顔を舐めた。そして、ニコっとしてくれた様な気がした。
日照坊さんは、タマコチラの去って行った湖面を眺めながら、やはり微笑みながら静かに言った。
「珍しいのう?土蛇様が人前に出てくるとは。ワシのせいで、人々に神社に埋められてからは、人嫌いになられておったが」
その横で、萬ちゃんは、うんうん、と頷いて同じ湖面を眺めていた。陽が西に沈む寸前、残り陽が、辺り一面を黄金オレンジ色に染めた。
間もなくして、辺りは暗くなる。夏の夜空には、満天の星が輝き、流れ星も流れては消えてゆく。まるで、星が夜空から降り注いで来る感じだ。
近くの遊園地から、真夏の空に花火が上がり始め、湖面にタマコチラが顔を出した。皆で、花火を眺めている。これから、西洋から人類を滅ぼしにやって来た妖怪たちとの戦いが、始まることを、まだ誰も知らない。
河童の萬ちゃんは、カラス天狗のてんてんと、知り合った時のことを懐かしく思い出していた。
昔、海の河童たちの一部の種族が、玉川上流域まで、進出してきた、という噺がある。萬ちゃんは、玉川中流から武蔵野の森に移り住んだ。そこで、カラス天狗のてんてんと知り合った。
萬ちゃんは、森の中の畑で、好物のキュウリを盗んでは、上水で洗って食べていた。高尾の山から、この武蔵野の森に移り住んで来た、てんてんは、森の木の上から、ある時、キュウリを洗って食べている萬ちゃんの所に、舞い降りました。
カラス天狗の子供?だ。
びっくりした萬ちゃんは、腰を抜かしました。てんてんは、萬ちゃんが、食べかけのキュウリを指さして、
「それ、美味しいの?」
と不思議そうな顔で萬ちゃんを見つめて、聞きました。
「うん、僕たち、河童の好物なんだヨ。君は天狗様?僕たちを食べるの?」
と、恐る恐る聞いたのでした。
てんてんは、びっくりしたように、
「え?そんなの聞いたこともないよ。僕は、カラス天狗で、名前は、てんてん。高尾の山から、この森に、最近、来たの!よろしくね!」
こうして、二人は友達になったのだが、暫くして、萬ちゃん達は、森を去り、多摩湖という湖の底に移り住んだのだった。
てんてんは、湖の景色が気に入っていた。よく、萬ちゃんを訪ねて、遊びに来ていた。そのうち、湖に住む、日照坊や、タマコチラとも友達になったのだ。
それから数日たったある日、てんてんは、顔から、腕、足などが、アザだらけで、そのうえ、いつも真っ白な装束はススで汚れて僕の前に現れた。
「どうしちゃたの?」
驚愕である!イジメどころの騒ぎではない。
(西洋から来た妖怪たちが、焼却場に爆薬をしかけ、この森を大火事にし、周辺の住民を焼き尽くす計画だ!)と、カラス天狗達は情報をつかみ、みんなで分担して、高い煙突のうえから、監視をしていたのであった。それがワナだったらしい。集まっていた天狗一族もろとも、煙突が、爆破されてしまったのである。
ヨーロッパの深い森に潜む妖怪と、地中海の魔人たちは、西は南アメリカから、そして、東はこの日本から、両方向から人類を絶滅させていく計画らしい。
僕は急いで、家にある救急医療道具、薬を全て持ち出して来た。そして、走って、てんてんと森に向かったのだ。僕は出来るだけ多くの傷ついたカラス天狗たちの治療と、救護にまわったのだ。
その後、てんてんと僕は、多摩湖に急いだ。傷の浅かった、カラス天狗のひとりが、飛んで連れて来てくれたのだ。
嫌な予感は、当たった!
湖畔の木の枝から、気絶したタマコチラが吊るされていた。
木の根元には、日照坊が、石の地蔵になって、頭を割られて座り込んでいる。
河童の萬ちゃんが、泣きながら日照坊の手当をしいている。湖畔には、悲しそうに萬ちゃんの姿を眺めている傷ついた河童一族の姿が並んでいた。すさんだ、敗戦のヤラレタ感が漂っている・・・
この日の昼前、湖畔の木の下で、金色の長い髪の女性が、遠くを見つめながら歌を歌っていたそうだ。その美しい歌声に、人々が吸い寄せられるように集まって来た。そこで、その女性は、恐ろしい妖怪に変貌し、皆を食べ始めたのだという。
日照り坊、タマコチラは、その妖怪と戦った。そこへ、髪の毛が蛇の魔女が現れ、人を石に変えてしまう。その後、大男が、大きなハンマーを翳して石となった人々を叩き割り出したのだ。河童一族の大反撃で、西洋の妖怪たちは、一応、退散したが、甚大な被害を被った。
僕は、、タマコチラを木から降ろして、介護する。タマコチラは、薄っすらと、目を開けて、僕の頬を優しく舐めた。そして、また、目を閉じてグッタリとしてしまった。
僕は、この戦いが、いつ終わるのかは、知らない。
てんてんが、戦っている所に出くわしたならば、しっかり助けられるようになっておこうと思う。
色んな、運動、勉強、とにかく、てんてん達の役に立てるようにしておく。
星の水辺のタマコチラ 横浜流人 @yokobamart
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