第25話 手のひらで躍らせる

「ふざけるな!軍を率いたことのない第四王子に任せられるわけがない。」


「我がカサンドラ家でサポートするゆえ問題はない。」


議論は白熱していた。いや、議論というよりただの水掛け論に近い。第一王子か第四王子の2択で言い争っている。本来ならば第一王子優勢なのだが今までの侵攻の失敗が軍部のせいとなり軍部の発言力が想定より弱まっていた。そうなると派閥に軍部が多い第一王子は不利になって第四王子と競っている。

俺達の派閥は静観している。本来ならば第一王子が圧勝するのを防ぐためにもっと早く行動する予定だったが両者が競り合っているので中立を保って俺達の価値を高めている。




会議が始まってから1週間が経った。もうそろそろ総大将を決めないと侵攻に間に合わなくなる。現状、軍部の発言力が弱まったとはいえ第一王子が優勢になりつつあった。このままでは第一王子に決まってしまうだろう。

日も暮れた頃、俺はブリュッケン公爵とともに人目を避けるようにカサンドラ侯爵邸に向かった。アポなどしていなかったが公爵を追い返すはずもないので俺とブリュッケン公爵はすぐに中に案内された。奥の部屋に通されると中にはカサンドラ侯爵が既に待っていた。


「こんな夜中にどうされましたか?ブリュッケン公爵にルードルス子爵。」



俺達の派閥はレイヴン王子を推すには発言力が弱すぎる。だからどちらかの派閥に協力することで見返りを求める。だから今まで静観してきた。そして夜中にわざわざやって来た。つまり、我が派閥につくという事に違いない。


とでもカサンドラ侯爵は考えているのだろう。しかし、それは少し違う。


「単刀直入に言わせてもらう。軍を3つに分けてそれぞれに総大将をたてる案を明日提案する。それに賛成してくれ。」


カサンドラ侯爵はしばらく黙り込む。


「なるほど、派閥ごとに別々に攻めるというわけですね。それならレイヴン王子にも総大将にできる。よく思いつきましたね。それで、賛成の見返りに何を頂けれるのですか?」


「見返りとは面白い事を言う。このままだと第一王子が総大将になってしまうが良いのか?」


カサンドラ侯爵はブリュッケン公爵の問いに苦々しい表情で答えた。


「分かりました。賛成しましょう。」



俺は一言も喋らずに話し合いは終わった。部屋を出るときに背後から鋭い視線を感じた。恐らくカサンドラ侯爵のものだろう。他の侯爵や伯爵ではなく子爵の俺がいた理由。それは発案者が俺だから。そんな事は簡単に気づいているだろう。だからこその視線だ。俺を値踏みしているのだろう。俺は何の反応も見せずにブリュッケン公爵の後ろを追いかけてそのまま部屋を出た。



「上手くいったな」


「はい、そうですね。1週間も待った甲斐がありました。恐らく今頃カサンドラ侯爵は悔しがっているのではないでしょうか。」


「たぶんそうであろう。我々の手のひらで踊らされていたのだからな。」


俺と公爵は悪い顔をしながらカサンドラ侯爵が悔しがっているであろう様子を想像した。






次の日、最後の軍議が開かれた。最初は今までと同じように第一王子と第四王子で言い争っていた。しかし、議論が白熱し始めた所でブリュッケン公爵が1人手を挙げた。参加者全員の視線がブリュッケン公爵に集まった。そこに陛下が声をかける。


「ブリュッケン公爵、何か言いたいことがあるのか?」


「陛下、このまま議論を続けても両者とも譲らず平行線になりでしょう。そこで軍を3つに分けてそれぞれに総大将をおくのはいかがでしょうか。」


周りを見渡すと第一王子派と第四王子派以外はかなりいい反応を示している。遠征の日にちが迫る中、いい感じの落としどころを探っていた国王や宰相、中立派の人間はこの平和的な提案を魅力的に考えているだろう。


「いい案ですね。私はブリュッケン公爵の提案を支持します。」


カサンドラ侯爵の支持にはカサンドラ侯爵の派閥の人間も含めてほとんどの人が驚いていた。恐らくカサンドラ侯爵派閥の人はこのままだと第一王子が総大将になってしまう可能性が高いと気づいていなかったのだろう。カサンドラ侯爵に困惑の眼差しを向けている。



そこからは議論がスムーズに進んだ。総大将は第一王子、第三王子、第四王子の3人にすぐ決まった。開戦の日にちと侵攻場所、軍の配分が決まると会議は終了になった。それ以外の細かい点は各派閥が決める。逆に言うと、戦果は各派閥の兵力や戦略に大きく依存するという事だ。






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「魔法高校の最強新任教師」

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ルードルス戦記(改)〜下級貴族から成り上がる〜 @tree-cats

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