咲かない思いは、歌を紡ぐ。
うたた
第1話 春風の中
「おはよぉー。」
朝の教室に、今日も間延びした君の声が響く。
「おはよう!」
それに声を返すクラスメイト達。窓の外には、桜が散っている。私は、それに言葉を返す君の声だけを追いかけている。
「あ、誕生日おめでとう。」
君が、前の席の子…須山さんにプレゼントを渡している。
「うわ、マジ?ちょー嬉しい!ありがと!おー、良さそうなペンじゃん!使う使う!」
「よかったあ。」
嬉しそうな二人を見て、思わず頬が緩んでしまう。…いいなあ。私も君のように、ひょいっと人を喜ばせてみたい。…あと、一度君からもプレゼントをもらってみたい。…なんてね。私は君に釣り合わない。そんな夢なんて、見ちゃいけないや。
昼休み。
「うちさ、今日柳沢にペンもらったんだー。ほら、これ。」
須山さんが早速自慢している。
「えー、いいなあーっ。私ももらいたいな、ペン。」
すぐに応えたのは上野さん。
「もらいたいな」の後には、「柳沢くんから」っていう思いも入っているんだろうな。上野さんと君は、同じ委員会。上野さんもよく君に話しかけている。きっと、上野さんも、君のことを想っている。私とおんなじで。
「あ、あと10分じゃん。早く着替えに行こー。」
「待ってよ、体操服取れん!」
背が高くてひょろっとした君は、なんでも全力で頑張る。上手とは言えないけれど、向こう側のコートでなんとかしてボールを返している君を見ていたら、後ろの烏山さんが飛ばしたボールが後頭部に激突した。
「…っ…⁉︎」
世界が揺れた。
「ぎゃあああああごめん!ごめん‼︎痛かったよね?」
「あ、う、うん、大丈夫。」
ずれた眼鏡を戻しながら、かろうじて答える。
「ほんとごめんね!」
「ううん。いいよ。全然痛くないし。」
嘘です。超痛い。
「そか、よかったー!じゃ、始めるよー!」
バレーのコートに、またボールが飛んだ。
短歌を書き留め、家路へとつく。桜の花びらが、道を埋め尽くしていた。
春風にボールを乗せる君の腕脱皮したての胡蝶のように
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