第3話 秋の桜

ゆらゆら、そよそよ。

通学路の脇に、秋桜が揺れている。

秋桜は、私が一番好きな花だ。目に優しい色、寄り添いあって生えているところ。そして、秋の桜っていう綺麗な名前。なんてすてきなんだろう。

「おはよう!」

後ろから葵に声をかけられた。

「わ、びっくりした。」

「突っ立ってるからこっちも何かと思ったよ。」

「あはは、ごめんごめん。」

「何してたの?」

「秋桜、見てた。綺麗だよね。」

「ほー。見たことなかったな。いっつも話してるか走ってるから。」

「そりゃ勿体ないよ。」

学校へと歩きながら話をする。

「もうすっかり秋だね。寒い時なんてあるし。」

「一月くらい前にあっつ…て言ってたのは誰?」

「私だ!あはは!」


教室に入ると、君の席には鞄が置いてあった。どこに行ったんだろう。

本を返しに行こうと図書室へ歩いていると、中庭の道で君を見つけた。

桜の根っこから生えたひこばえと睨めっこしている。

なんだか微笑ましくて、つい声が口をついて出た。

「何をしてるの?」

「いや、この葉っぱ何ていう植物かなーって。」

ひこばえに生えた桜の葉っぱは、日陰にあるせいか少しくすんだ色をしている。一週間もすれば、ほんの少しの青さも取れて、元の桜の葉っぱとともに散ってしまうだろう。

そして、ひこばえは元の木の成長を妨げるし、邪魔になるので切られてしまう。そんなひこばえにも興味を持った君に、また惹かれてしまう。

「…これ、桜だよ。ほら。」

ひこばえの根を隠している萩の茎を持ち上げて見せる。君に教えてあげられることがあるなんて、こんなに話せる日が来るだなんて。私の心はぱんぱんに膨らんでいた。君にこの気持ちを伝えることはきっとできないけど。嬉しい。

「うわあ、ほんとだ!気づかなかった!そっかそっか…。」

嬉しそうな君を見て、私も心から笑顔になる。

「がんばれよ。」

君はひこばえにぽんぽん、と、小さい子どもにするように優しく触った。

…こんなこともするのか。可愛いな…。少しだけ、ひこばえが羨ましい。

「あ、ありがとー、咲人くん。初めて知ったよ。」

「ううん。こちらこそ。」

そう言って、図書室へとまた歩き始めたけれど、私の心の中は、もう本のことなんて考えられなかった。君に感謝してもらえた。君の可愛いところが見られた。それだけでいっぱいだった。


一時間目、数学のノートの隅にこっそり書き込んだ。


ひこばえを「がんばれよ」って撫でた君の声、秋桜あきざくら越しに聞く

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