第2話 蝉の声
みーんみんみんみーん。みーんみんみんみーん。
蝉の声が頭に響いてくる。
「あっついな…。」
珍しく早く登校してきた隣の席の友達、葵が私の本を覗き込んできた。
「そうだね。やっぱり夏だなあ。」
「いや夏とはいえこれはあっついでしょ。」
「そうだね。地球温暖化の影響かなあ。」
「…さくちーは真面目だな…。」
「そお?」
「うん。だってその本とかもさあ…いっつも古くて難しそうなの読んでるじゃん。」
「どんな本を読むかで真面目かなんて測れないとは思うけど…後古くても面白いやついっぱいあるしね。」
現に読み応えがある本に惹きつけられているから。
「いやすでに本を読むことが真面目なんだって…。ま、いいけどさ。」
葵は宿題を取り出して提出に行った。
私は本を読むふりをしながら、ふっと君の方に目を向ける。上野さんが君に話しかけていた。
「ねえねえ、柳沢くんって彼女とかいるの?」
カノジョ。
「んー?いるよー?」
一見鈍感そうな君のその返事に、教室内の人の声が消えた。女子数名の顔が凍りつく。私の顔も固まった。真夏だというのに教室の温度が十度くらいになった気がした。
ただ、蝉の声だけが雨のように降り注いできた。みんみん、みんみん。
「あ、蝉の抜け殻ある!取ってこよー!」
何にも気づいていない様子で、君は凍りついた私たちを置いて、目を輝かせながら飛び出して行ってしまった。
…もう、君のことを想ってはいけない。そう思うのに、そんな姿にすら惹かれてしまう。ああ、なんだろう。
「マジかー。柳沢も付き合ってんだね。リア充羨ましいっ!」
そんな私の思いも知らず、葵が横で叫ぶ。
「そうだね。」
いつも通りに私は答える。
窓を見ると、桜の幹からちょうど蝉が羽ばたいていくところだった。
さみしいな。でも、君の幸せそうな顔をまだ見ていてもいいかな。
家に帰って、ノートを開く。まっさらなページの一番上に、自分で買ったペンで文字を綴る。
蝉時雨教室中に響きだす「カノジョがいる」と知られただけで
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