第4話 小さな吹雪
「あ、雪…。」
学校へ歩いていると、雪が降ってきた。
「積もるかもね。」
そう呟いて、また歩く。
今日は2月14日。バレンタインデーであり、君の誕生日だ。
鞄の中には、ラッピングされたチョコレートが入っている。…渡せるか、なんて知らないけれど。
頬にぴと、と雪が落ちてきた。冷たい。そう思った途端に、記憶の扉が勢いよく開いてきた。
「…っ!」
…あの日も、雪の、冷たい日だった。2年前、ー、この高校に入る前、ある男子を好きになって、バレンタインの日に告った。チョコも持って。
『ー、す、好きです。』
『は、へ?』
驚いた様子の彼は、それでも『…あ、ありがとう…』と言ってくれた。でもそれはきっとその場を収めるための言葉だったんだろう。
次の日。難しそうな、困ったような顔で彼がやってきた。
『…ご、ごめん。一晩考えたけど、俺よくわかんなくてさ。好きだ、ってのは伝わったけど、全然わかんなくって、…後、別に、好きな人、いるんだ。』
『そっか。…こっちこそ、ごめんね。』
私の言葉は、そっと溢れて、微かに震えた。
違う。
こんな顔をさせたかったんじゃない。
こんなに悩ませたかったんじゃない。
ただ、私は彼の笑顔を側で見たかっただけなんだ。
…その記憶は、ずっと私の心に根を下ろしている。
…だから、やっぱりだめだ。渡せないや。まして君には、付き合ってる子がいるんだ。その子と幸せにしていてくれるなら、私はそれでいい。幸せそうな君が見たいだけなんだから。君の幸せは邪魔できない。
「おっはよー!」
葵の元気そうな声に、後ろを振り向く。
「あ、葵。おはよう。」
「ふふーん、今日はいいもの持ってきたんだよ!」
葵が鞄から可愛い包みを取って差し出してくる。
「え、それ…。」
「いーからいーから。友チョコだよ。」
「…それじゃ、ぼ、僕も。」
鞄の中に一つだけあったチョコレートを、葵に渡す。
「えー?私に渡しちゃっていいの?」
「…いいんだよ。」
「…わかったよ。私の前では無理なんてしなくていいんだからね。」
葵…、いつも気遣ってくれるのに、また取り繕ってしまう。ごめん。
「あ、ありがとねー!じゃ、みんなに友チョコ配ってくる!」
教室に入った君の机には、袋が山と積まれていた。
「誕生日おめでとー!」
「ありがとうー。」
「おいおい柳沢、モテモテじゃねーか。」
「そうかなあ?でも、みんなにプレゼントもらえて嬉しいなー。」
「彼女ちゃんが嫉妬するだろ。」
「なんで?だって僕もあの子も格別に相手が大好きなんだよー?どっちも浮気なんてしないしー。」
「…いや、そうじゃなくて…まあいいや。」
幸せそうな君を見て、私はそっと微笑んだ。
窓の外の雪は、風に煽られて吹雪のようになっていた。
そっとメモ帳を取り出して、書きつける。
心には吹雪が吹いていようとも渡せぬ想い確かに抱こう
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