罪の女の句・歌を詠おう ④マカレーナ
死んだあと、人はどこへ行くのか?
それは定かではないが、死んでからも生きている者の声がとどくことが、ときどきはあるらしい。ならばマカレーナほどの情熱と活力にあふれた女が、地上の声を聞かないわけがない。当然、フアンたちの句もとどいているのだ。
彼らの歌をマカレーナはどう受け止めたか、すこしだけ覗いてみましょう。歌に歌で返事してるのは、ご愛嬌。
1.『あだ花の手向け受けとれ
あだ花ってどういうことよ? 人にあげよってんなら「麗しの」とか「匂いたつ」とか、いい感じの飾り文句をつけて贈るもんでしょーが。まあフアンにそんなの期待しちゃいないけどさ、せめてふつうに「花」って言いなよ、ばか。
(あだ花は、徒花。実を結ばないむだな花。ただし「婀娜花」と字を当てれば、美しく
ここにフアンがいたら蹴っとばしてやるとこなんだけどさ。死んじゃったおかげでもう蹴れないのが残念だわ……ほんとに。フアンも蹴る女がいなくなって、寂しがってるかもね……なあんて。ま、置いてきぼりにしちゃって、ちょっとはわるいと思ってるのよ。
だからね、あだ花は
だからもうそれはいいとして。「妻」ってなんなのよ! あのばか、一度でもプロポーズしたことあった? あれ? 近いことはあったっけ……でも「うん」なんて言ってないわよ。言ってないはず。あんたとあたしはそんなじゃないの。そんな約束ごと必要ないのよ。そんなのなくたって、あんたは大切な相棒よ。永遠の相棒。
っていうかね、あたしのことはもうとっとと忘れて、ほかの女とくっつきゃいいのよ。フアンがひとりぼっちでいたら、あたしの胸がむだに痛むじゃない。まったく、あのばか。あたしなんかにひっかかっちゃって、ほんと……ばか。
あだ花の手向け受けとれ永遠の妻
勝手に妻にしてんじゃないわよ ――マカレーナ
2.『相談も文句いうのも写真越し』(ダニエリ)
うゎ。まだ文句いうつもり? もう死んじゃったんだから、ちょっとぐらいは大目に見てほしいな。なんてね。いっくらでも言ってよ、どんと受け止めてあげようじゃない。……って、この声があっちには届かないんだよね。死ぬって不便だわ。
相談だって、生きてるうちに言いなさいってのよ。ずっとそばにいたのにちっとも相談なんて言ってこなくってさ、ほんとにもお……いっぱい相談に乗ってあげたかったのにな。もうすこし生きてたらちがったのかな。
いまはガビがそばにいるんだから、これからはガビに頼るのよ。妬けちゃうけど、あたしの大好きなふたりが一緒になって、一緒に幸せになってくれたら嬉しいわ。
だから元気出すのよ。あんたが元気になんないと、心配になっておちおち死んでられないわ。なんて言っても生き返られるわけじゃないけどさ。
ダニーのことが心配なの。いつまで経っても心配で心配でしかたないの。男嫌いはすこしは治ったのかな。ガビとだったら乗り越えていけるのかな。なにかあったら、なんでも言ってくるのよ。返事はしてあげらんないけど、あたしはずっとそばにいるんだから。
相談も文句いうのも写真越し
しかたない子ね、さあ聞いたげる ――マカレーナ
3.『まぶし
いやん、いまでも想ってくれてるの? でもガビのことだからなあ。愛してはくれてるんだろうけど、あたしが胸を焦がして愛したのとは、ちょっとちがうんだよなあ。それでも嬉しいわ。すごくすごく嬉しい。過去形にしてごまかしたけど、ほんとはいまでも愛してる。あの日海の底に捨てるって決めたんだけど、やっぱり愛してるの。
妬いちゃだめよ、フアン。あんたとの腐れ縁も愛おしくは思ってるんだから。でもそんなことあんたにはぜったい言ってやんない。
それにしたって、ダニーがすぐとなりにいるってのに、あたしのことを想うだなんて、どんだけ無神経なんだか。それでも責める気になんないのがガビの不思議なとこなんだけどさ、やっぱりひどいよね、ふつうだったらさ。
でもガビはふつうじゃないんだよ。そこがいいの。愛してるの。……だから大切なダニーをあんたにあげるわ。一生ちゃんと守るのよ。
まぶし陽に想うおもかげゆかし女
ばか、でもあんたはそれでいいのよ ――マカレーナ
(句・歌を詠おうシリーズ、おしまい)
『罪の女の歌』番外編 久里 琳 @KRN4
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