闇の少年
カフェオレ
第1話
白骨死体が見つかったのは四月の半ばのころだった。
それが発見されたのは現在は廃校となった高校の体育館倉庫の中だったという。そのために学校ではその子の幽霊が彷徨っているという噂で持ちきりだった。
「そりゃあ、噂にもなるさ。なにせ白骨死体が発見されたのだからな」
父はテレビを見ながら他人事のように言う。
けれど、他人事ではないはずだ。なにせ白骨死体に一役かったのは、この父だったからだ。
だがこの時僕はそんなこととは露知らず、父の表情がやや緩くなっている理由なんて知る由もなかった。
「噂のこと知ってるの? まさかね」
いつも無口で冷静な現実主義者の父が、母のいない夕食の席でテレビを見ながら穏やかな表情で、一言でも言葉を発しただけで珍しい。僕はつい話を広げようとしてしまったが、今思えばこれは間違いだったのかも知れない。
「知ってるさ。旧第一高校校舎付近で怪しい人影の目撃談が続出した。その後そこの体育館倉庫で白骨死体が発見された」
「うん。その人影は学校を彷徨ってる幽霊じゃないかって言われてて、闇の少年って言われてる。何で少年なのかは分からないけど。それで骸骨がその正体なんだって」
「どうして骸骨は見つかったんだ?」
この手の話題に父が乗ってくることに並々ならぬものを感じた。普段なら今頃の高校生はそんな陳腐な噂を楽しんでいるのか、などと言われかねない。
僕は学校で聞いた通りの噂を説明した。
「匿名の通報があったらしい。第一高校の体育館倉庫に骸骨があるって」
「匿名で通報ねぇ。なるほど」
そう言った父の表情はまたしても緩んでいた。まるで何事かを楽しんでいるような不気味な笑顔だ。
「父さん……何か知ってるの?」
この時、悪い予感がしたにも関わらず僕は思わず聞いてしまった。
世の中には知らない方が良いこともある。これもその内の一つだったのだと、後に僕は知ることとなる。
「ああ。発見された白骨死体の正体を知っている。それだけじゃない。どうして骸骨になったのか、なぜ廃校の体育館倉庫で発見されたのかも」
冗談だと思った。しかし、父がそんな冗談を言うはずがない。それに今や父の顔は真剣そのものだ。嘘を言っている顔ではない。
「……聞かせてくれる?」
「ああ、聞かせてやる」
嫌な予感がしたが好奇心がそれに勝った。
父はまるで思い出話をするように穏やかな口調で、この「事件」の全貌を語り出した。
「もう三十年前の話だ。白骨死体の見つかった旧第一高校。そこは俺の母校だったんだ」
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