付録第2号 可愛い可哀そうなフランス人形

本作品は夏梅高校のオカルト研究部から発行された部誌、怪談特集に収録された怪談話から抜粋したものです。


 


 *


 


著:夏梅高校オカルト研究部(男子禁制)所属 2年B組 真知田 恭子


題:可愛い可哀そうなフランス人形


 


これは私の実体験なのですが、私の住む屋敷には沢山のフランス人形があります。貿易商の父が帰宅する度、必ず持って帰ってくるからです。ある日珍しく父が家にいたため、お話をしようかと父の部屋を訪れるとフランス人形を手入れしているところでした。


いやあれは手入れだったのでしょうか?父はテーブルにフランス人形を安置すると、何故かカメラを片手に床に寝そべり下からフランス人形を撮影していました。不思議に思いしばらく眺めていた私はあることに気づきました。それは普段、まっすぐ遠くを見つめているはずの青い目のフランス人形が、床に寝そべる父を睨みつけていたのです。それは机に安置されていたフランス人形だけではなく、ガラス棚に飾られているフランス人形たちも父を睨みつけていました。


そこで私はやっと父が破廉恥な行為をしていることに気づき、私はそっと父の部屋から離れました。それからというもの私は自室に飾ってあるアニメキャラクターたちのフィギュアが怖くてたまりません。何故かと言うと父ほどではありませんが、私も可愛い女の子のフィギュアを買ってはスカートの中を覗いていたからです。もしかしたらその時、フィギュアに睨まれていたのではと想像してしまうとやはり恐ろしいです。


 


 *


 


そしてそんな恐怖の日々は更に陰鬱なものになっていきます。


「見てみよろよ恭子。凄いだろこのサイズ、等身大のフランス人形だ」


私が中学生の頃、父に妹が欲しいといったことをいまだに覚えていた父はなんと、妹の代わりに等身大のフランス人形を買ってきました。断ることもできず、そのフランス人形は私の自室に安置されました。私はフィギュアの手入れのついでにと、フランス人形も毎日慎重に手入れをしていました。そのうち私もこのフランス人形に愛着を持ち始めました。奈々ちゃんという名前をフランス人形に付け、学校でのあった事とを話すようになっていた私はある奇妙な体験をしました。


それは私と奈々ちゃんの二人でお茶会をしていた時のことです。私は自分と奈々ちゃんの二人分の紅茶を入れ、奈々ちゃんとお茶会をしていました。そして自分の分の紅茶を飲み終えると、奈々ちゃんの分の紅茶も飲んでしまおうとティーカップに手を伸ばしました。そして奈々ちゃんの分の紅茶を口にしてある違和感を覚えました。そして次に奈々ちゃんの分のクッキーを口にしたところ。またしても同じ違和感を覚えました。味がないのです。私と奈々ちゃんに出したクッキーは市販のもののため、味がないなんてことはあり得ないと思うのですが。ふと奈々ちゃんの顔を見ると最初、この部屋に来た時より微笑んでいる様にも見えました。


 


 *


 


等身大フランス人形奈々ちゃんの奇妙な現象はこれだけではありません。ある日、父が奈々ちゃんを一日だけ貸してほしいと頼み込んできました。私は何をする気なのか察しながらも、渋々父に奈々ちゃんを渡すのでした。しかし次の朝、目が覚めると私の自室に奈々ちゃんが鎮座していました。どうやら父が私が寝ている間に返してくれたようです。と廊下からバタバタと大きな足音が近づいてきます。そして勢いよく扉が開かれ


「恭子!お前等身大のフランス人形がどこに行ったかしらないか…」


父は等身大フランス人形の奈々ちゃんが私の自室にあることに気づくと、狐につままれた様な顔をして私に聞きました。


「恭子、この等身大フランス人形どうやって自室まで運んだんだ?それもいつの間に」


私は運んでないと答えました。そもそも等身大というだけあって、使用人何人かが協力して運ばないととても運べません。なによりこの屋敷では使用人たちは皆、午後18時以降にはいなくなってしまいます。そのため誰も等身大フランス人形を運べるわけがないのです。父は頭をぽりぽりかきながらおかしいなぁと呟き、私の部屋から出ていきました。そして私は天蓋付きベットから降りると、部屋から出ていった父を睨みつける奈々ちゃんの手を握り言いました。


「おかえりなさい奈々ちゃん」


 


 


 


★オカルト研究部よりコメント★


 


・わかるわかる。可愛い女の子のフィギュアのパンツ見ちゃうよね!それに真知田さんと奈々ちゃん相思相愛な感じ良いなぁ(R・Sより)


 


・なんだろ...私の中の清楚なお嬢様イメージだった真知田さんが壊れていく。あと奈々ちゃん普通にお祓いするべきでは?(M・Sより)

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夏梅高校オカルト研究部怪奇譚 城島まひる @ubb1756

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