付録第1号 学校の七不思議、血の手形の検証結果

本作品は夏梅高校のオカルト研究部から発行された部誌、怪談特集に収録された怪談話から抜粋したものです。


 


 *


 


著:夏梅高校オカルト研究部(男子禁制)所属 2年D組 咲杜 恋歌


題:学校の七不思議、血の手形の検証結果


 


これは妹の茉莉ちゃんから聞いた話です。


茉莉ちゃんはよく私の部屋を訪れては怪談をたくさん聞かせてくれます。語り部をやっている時の茉莉ちゃんは生き生きとしていてとっても可愛いです。


そんなある日、茉莉ちゃんが私の部屋を訪れた際にとっても短い怪談を教えてくれました。なんでも母から聞いた怪談らしく。次のようなものでした。


 


ある冬の日、親子が家に続く帰路を歩いていると子供が道に何か落ちているのも見つけました。


「ねぇねぇお母さん赤い手袋が落ちてるよ」


と子供がお母さんのコートの裾を引っ張りました。するとお母さんは言いました。


「ほんとだ。中身が入っているわね」


 


語り終えると茉莉ちゃんは私の部屋から出て行ってしまいした。いつもは怪談を語り終えると感想を言い合うのですが、今回は何もせず終わってしまいました。ところでこの怪談。どう解釈するのが正解なのでしょう?


赤い手袋をした切り落とされた手首が道に落ちていたのか?それとも敢えて面倒な言い回しをしているあたり赤い手袋というのが血まみれの人間の皮膚で、中身というのが骨とか筋肉を指しているのでしょうか?つまり生の手首が落ちているわけですが。


これどちらが正解なのでしょう。


というわけで早速次の日、クラスメイトの友達に語り疑問を問いかけました。やっぱり意見は私の様に二つに分かれて、これが答えだというものは出ませんでした。そしてがっかりした私は段々とこの話題を忘れていきました。


 


 *


 


2週間後。私はある噂を耳にしました。なんでも旧校舎の3階の窓に血の手形がびっしりと付いていたそうです。怖いなぁと思いながらもどこか違和感を感じた私は、でもまあ良いかと思いやはりその噂も忘れて行きました。


しかし忘れた筈の赤い手袋の怪談と、血の手形の噂は思わぬ形で思い出すことになりました。それはこんな噂が流れ始めたからです。赤い手袋をして旧校舎に入ると何者か殺されるといったものです。なんでも旧校舎3階の血の手形は赤い手袋をして旧校舎に入った生徒が斬り付けられ、必死に逃げようとした結果残ったものであると囁かれていました。


「ねぇねぇマジやばくなーい」


「えっうん、そうだねマジやばいね...あははは」


流石に馬鹿な私でもわかりましたその怪談、絶対私が語った話が元ネタじゃんって。私の友達を介して赤い手袋の話を聞いた人からすれば私は匿名の誰かであって、噂が広まっていけばいくほど匿名の誰かが増えていく。まるで私自身が増えていくような奇妙な想像をしてしまい怖くなりました。噂って怖いですね。広まれば広まるほど発信元である匿名さんが増えていく。そしてどんどん蛇足されていき最終的に、噂が噂じゃなくなっちゃたりしたりして…


 


 *


 


でもやっぱり好奇心には勝てない私は下校時間を過ぎた後、旧校舎の3階に忍び込んでみました。そしてありました。噂の血の手形。しかし本当に血であるという確証はないわけで、私はその手形をそっとなぞってみました。もしかしたら絵の具で描かれただけかもしれませんし。結果から言えば手には何も付着しませんでした。やはり絵の具だったのでしょう。恐らく絵の具が乾いてしまっていたから手に付かないのだと結論付け、私はそのまま旧校舎を後にしました。やっぱり噂は噂でしたね。


 


 


 


★オカルト研究部よりコメント★


 


・まさかとは思っていたけど、赤い手袋の話を全校に広めたの姉さんだったか。(M・Sより)


 


・全校で話題になってついには七不思議まで昇華した怪談の一つですね。この怪談の出所、恋歌さんだったのですね。ところで血の手形って本当に絵の具がだったのですか?例えば窓の内側からではなく外側から描かれていたとか...ありませんよね?(K・Mより)


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