1月8日(end)


 やりきれない感情で始まった冬休みも終わり、手をつけていない宿題の計画を建てながら校門を通り抜ける。


 新年ムードが残っているような、残っていないような教室の席に座り、数学の問題集を取り出した。まだ、特に誰も来ていないようだ。でも、その宿題に取り組む気分にはなれなかった。


 (…………茉耶。)


 私は、まだ彼女を覚えていた。でも、席順表を何度注視しても、信濃茉耶の文字は見当たらない。


 …………恐らく、私の意識が別の何かに向いてしまうまでがタイムリミットだ。ずっと、茉耶のことが頭から離れなかった。だから、奇跡的に、彼女のことを覚えていられているに過ぎないんだ。




 (…………眠い。)


 思い抱いたように襲ってくる眠気に、彼女の境遇を思い出す。それでも、私は夢を見ることも、消えることもないのだ。しかし、今、眠ってしまうと、全てを忘れてしまう予感がした。



 「嫌、だなあ…………」




 暖房が効き始めた、まだ少し肌寒い教室。うつらうつら、どうしようもない苦しさの中、私の中の彼女の消失までの時間を過ごしている。


The end


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アカリマヤカシの証明 @yukydarma

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