第248話 何でここに先生が!?

 「お兄ちゃん? みんな用意が終わってるから行けるよー」


 前日までの合宿中のことを思い出していると、ドアの向こうから今宵に呼ばれる。

 今日は早めに起きていたのだが、時計を見ると8時15分を指していた。

 東三条さんやキぃさちが来ていたことには気が付いていたが、もうこんな時間か。

 ただ、矜侍さんからの連絡では、ダンジョンの25階層に9時前に集合とのことなので、15分前に到着するとしてももう少しだけ時間に余裕はある。


 「俺たちは魔法陣転移で移動ができてすぐに行けるけど、準備ができたなら行くか」


 「SNSで調べたら、ほかの参加チームっぽい人たち? は数日前からダンジョン入りしてるらしいよ。今宵たちが最後のチームだと注目されたら恥ずかしいでしょ!」


 ああ、ダンジョンの25階層だと移動に時間がかかるから、高ランクの探索者でも一日か二日前にはダンジョン入りをしてるのか。

 ってかその場合は、俺たちが参加者の中で最後に到着するチームになるのはもうこの時点で決まってるんじゃないの?

 俺はそんなことを思いながらも、今宵の呼びかけに応じて部屋を出ると、みんなとともに一旦ダンジョンの20階層へと移動した。



 「きょ、矜一。どこかおかしな所はないだろうか」


 25階層へいきなり行かずに20階層に一度来た理由は、アステリズムメンバー(仮)の中で椿だけが空間魔法が使えず、変身チェンジの魔法で一瞬で着替えることができないためだ。


 「いや、いつも通り似合ってる。……あれ? アルコルのネックレスの形が少し変わった?」


 俺はここ最近見慣れた椿のアステリズムオオカミの衣装を見ながら答える。


 「あ、ああ。普段もつける予定だって話をアステルにしたら、バレちゃうでしょ! と怒られてしまって。クラフトスキルでギミックをつけてもらったんだ」


 椿はそういうとアルコルの魔石のついたネックレスを触る。

 すると形が変わり、俺が前に見た状態のネックレスに戻った。


 「宝箱でなかったー。あ、そのネックレスは魔力を込めると形が変わるようにしたんだよー。可愛いでしょ!」


 ヴァンパイアを倒し戻ってきた今宵が、俺たちがネックレスの話をしていることに気が付いて話題に混ざる。


 「可愛いってかすごいな」


 うちの妹がなんでもできてしまって何を目指しているかわからない件。


 「ついにわた……く、くふふ。エトワール東三条として他の方の前に出ると思うとさすがに緊張しますわね」


 俺たちがしゃべっている横で東三条さんが急に笑い始める。

 えぇ……私様って言いそうになって契約魔法のくすぐりが発動しちゃったの!?

 契約魔法で縛るってのは俺的には嫌だったんだが、東三条家の人たちの命を考えると結んでおいて良かったな!

 まだ本番ではないが、この調子だと絶対にミスしていただろうし。

 

 ちなみに東三条さんのアステリズムでの名前はエトワール。

 フランス語で星って意味なので、俺たちに完全に合わせてきていた。

 まあ、さっちゃんのファーナはスウェーデン語でも西の方の発音で、首都のあるストックホルムのあたりだとシャーナ……標準語と関西弁みたいなってそんな話はどうでもいいか。


 しかし、東三条さんは普段は大勢の前でも堂々としているのだが、顔を隠し名前も変えている方が緊張するってどういうことなの!?

 俺はくすぐりが発動したことをキィちゃんに突っ込まれている東三条さんを横目で見ながら……って今宵たちが遊び始めると遅刻してしまう。


 「ちょうどいい時間だしもう行こう」


 「うんうん、最後だと注目されちゃうからね!」


 俺は他のチームは前乗りしている可能性が高いと思いながらも25階層へと移動する。



 俺たちが25階層に到着すると同時にカメラのシャッター音が聞こえ、そちらを見るとカメラ(TV)を向けられていることがわかった。

 カメラ(写真)とカメラ(映像)って同時に向けられていると言葉で言い表しにくいな!?


 どうやら参加をするテレビ局の二局が25階層までやってきているようで、その護衛なのか後ろに多くの探索者もいるようだ。

 インタビューを受けている外国の探索者もいてこちらを注目していることから、俺たちについて何か話しているのかな?


 「あれはアメリカのトップチームの一つと言われている方たちですわね」


 「あ、あっちの人たちもテレビで見たことがあるかも」


 東三条さんがインタビューを受けている外国人探索者がアメリカのトップチームだと話していると、さっちゃんがもう一つのテレビ局の前にいるチームの話をする。


 「あちらは……ロシアのトップチームの一つですわ」


 「えぇー! 今回のイベントに参加するのかな? でも日本のチームだけって話だったような」


 今宵が他国のチームは参加できないのでは? と言っているが、俺もそう思っていたが……。

 いや、待てよ? テレビ局の代理で探索者チームが参加するって話ではあったが、それについては国籍がどうとかって話はなかったか?


 「テレビ局の代理っぽいな。アメリカとロシアのトップチームなら日本よりすごそうだし、それだけテレビ局もダンジョン内がライブ放送できるカメラの取得に本気ってことなのかも」


 「あー、マスコミってそういうルールのグレーなところをつくのって上手そう」


 キィちゃんは毒舌だから、意外とマスコミと相性は良さそうだけどね?

 俺がそんなことを思いながらキィちゃんを見ていると、ふいに後ろに気配を感じる。


 「ブービー後ろから二番目だぞ、きょ……シュテルン」


 「矜侍さん。俺たちより遅いチームがいるんですか? それってもう間に合わないんじゃ」


 「どうだろうな。っと、それよりもシュテルン。ライブカメラのアップデートをしたから更新しておけ。名前を言ったり放送禁止用語が配信に乗ると、勝手にAIが判断をしてピー音が流れて放送規制が瞬時に行われるようにしておいた。あと、流れるチャット欄もAIが取捨選択をしてお前ならギリギリ読めるくらいの量が流れるようになっている優れものだ。他にもいくつか改良したが、まあそれは使ってみてのお楽しみだな」


 電波が届かないはずのダンジョン内で更新しておけとさらっと言われても……。

 ってか、名前を言ったりってさっきミスをしそうになった矜侍さんが自分のために改良したのでは!?

 そもそもこれが分かっていれば、もしかして東三条さんの一人称問題も関係なかったんじゃ。

 いや、ピー音は流れるわけだから、言わない方がいいのは変わらないのか。


 「またすごい謎技術ですね」


 俺はそう言いながらもカメラを取り出してアップデートをするためにボタンを押した。


 「お、どうやら最後の一チームが来たみたいだな」


 矜侍さんはそう言うと、元の場所へと戻っていく。

 そしてその数秒後、25階層の魔法陣から最後のチームが現れる。


 「校長先生。いくら転移ができるからってギリギリじゃないですか」


 「まだ10分前だしギリギリと言うよりちょうど良い時間だろう?」


 「いや、学校なんかではそうですが、ダンジョン内では――」


 俺はそんなやり取りをしている人物から目を離せずにいた。


 「さ、冴木先生がどうしてここに」


 後ろで椿の呟きを聞きながら、俺は桃井先生に宿直の交代を頼んでいたのはこの為だったのかと妙に納得するのだった。





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 お久しぶりです。

 パソコンがあまりに不調すぎ……、ブルースクリーンの嵐でした。

 まだ完全に復調はしてはいないのですが、更新できるくらいにはなっています。

 更新ができていない間にもギフトで応援をしてもらい感謝しています。


 【告知】

 『ダンジョンで成り上がれ!』第1巻が4月7日発売されます。

 地方(うし。の住んでいる辺り)では4月9日の発売です。

 こんな直前というか発売日に告知となって申し訳ないのですが、アマゾン、とらのあな、アニメイト、メロンブックス(七海&葉月特典)、ゲーマーズ(ラフ)でネット購入も可能です。

 電子の場合と早めに予約をしている場合(東京あたり)は、今日(6日)から既に買える(届いている)と思います。

 コミックの方では加筆がある可能性も……ありますよ!

 お願いしかできなくて心苦しいのですが、どうぞよろしくお願いします。

 ガンマぷらすでコミカライズ7‐1話も本日更新(情報量多すぎ)

 





 


 

 

 

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ダンジョンで成り上がれ!~幼馴染からも嫌われてゴブリンにさえ勝てなかった俺が、ダンジョンルーラーの指導を受けたら強くなれたので妹と無双します~ うし。 @High_fence

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