第247話 イベント前

 合宿を終えてついに矜侍さん主催のイベント開催の日がやってきた。

 合宿についてはかなり濃密な訓練ができたと言ってもいいだろう。

 矜侍さんの連絡では、朝の9時にダンジョンの25階層に集合と言うことになっているため、魔法陣転移により一瞬で移動ができる俺たちはまだ時間がある。


 出発の準備も既に終えているため、俺は合宿であった出来事を思い出していた。

 まあ、合宿に向かう前にもいろいろあったんだけどね。

 学校が終わり、合宿に向かう準備をしていると、父さんが椿とマコトを連れて帰宅する。

 マコトは学校を終えてから、父さんたちと合流してダンジョンに行こうとしていたらしいのだが、その時に初めて矜侍さんのイベントのことを知ったらしかった。

 

 そして俺がマコトは回復できるので、最初はマコトに参加を頼もうかと言っていたことを父さんから聞いて、母さんと桃香、聡はダンジョンへ、父さんとマコトは家へとやってきたようだった。

 マコトは興奮した様子で、メンバーが桃井先生に決まっていても、ポーターで参加できます!(フンス)と言う感じでついてくる気満々だったのだ。

 

 俺はそのマコトの表情を見て、マコトとダンジョンに初めて行った当時を思い出す。

 あの時は、俺が矜持さんの箱庭から戻ったばかりで、今宵もスキルを覚え、早くステータス偽装を身につける必要があったため、ついて来ようとするマコトに対して不満があり、俺の態度も酷かった。

 それが今では重要な仲間となっていて、カルラ戦後に長く生きられない覚悟をした俺を回復までしてくれた。

 まあ、「私はポーターが得意ですから!」と言って話している時には、いや……得意ではなかったし、一人でダンジョン内の移動も出来なかったよね? と思ってしまったことは内緒だ。


 その後、桃井先生から東三条さんに変わった時にもさらにもめたのだが、父さんが「矜侍さんのイベントならLIVE配信される可能性があるんじゃないか? マコトのあの回復方法が世間に見られて矜一は問題ないのか?」と言う一言で、俺はマコトをポーターであっても連れて行かないと決意した。


 最終的には、俺といつか二人で探索をすると言う話でマコトはついて来ることを諦めてくれていた。

 むしろ俺からすれば、そんなことで良いの? と言う感じだったのだが、いろいろ教えてほしいらしかった。

 正直、父さんや母さんより俺の方が教え方は下手だと思うのだが、それをマコトに言うと、なぜかマコトではなく椿が「こいつマジか!?」と言う表情をしていた。

 解せぬ。


 こんな感じで合宿前から濃かったのだが、合宿中も多くのことが起きていた。

 最初の一日半は24階層でオーク村を襲い蛮族し……じゃなくて激闘して椿のレベル上げ。

 東三条さん、キィちゃん、さっちゃんがオークジェネラルを単独で倒せるまでに成長し、椿も俺たちが一度目に激闘した時のキィさちくらいの強さになったことから、残りの期間はイベントの予習として階層を上げながら訓練した。

 あ、そうそう、24階層のオーク村はオークロードがいた場所だけではなくて、探せばいくつかあったので、そこを周回蛮族することでリポップが遅いオークジェネラルであってもソロ挑戦の練習をするくらいには数をこなすことができていた。


 アステリズムの合宿を終えた時点で、俺のレベルが29、今宵も29、東三条さんが28、キィちゃんとさっちゃんの二人が26、椿が25となっている。

 キィちゃんとさっちゃんの二人がついに25のリミットを超えた。

 二人はそれぞれレベルが26になったことで、キィちゃんが『業火の挑発疾駆ごうかのちょうはつしっく』と言う挑発スキル、さっちゃんが『水鏡の守りすいきょうのまもり』と言うスキルを覚えていた。


 キィちゃんはレベルが26になる前に生活魔法のレベルが6になったことで、基本属性魔法も自力で取得しノリに乗っていた。

 そしてレベルが26になり……憶えられる可能性がある魔法やスキルの出現を期待値激高の状態で迎える。

 そこで現れた選択肢は、業火の挑発疾駆、疾風の軽蔑刃しっぷうのけいべつじん氷水の嘲笑撃ひょうすいのちょうしょうげき堅土の冷笑波けんどのれいしょうはと四属性が名前にあるスキルが4つ出現したことで、さらに期待値を上げて誰も見たことの無いようなスキル名から俺たちを煽りに煽って……いたのだが、その4つ全てが魔物に対する挑発スキルと言うことが判明し一気にテンションを下げた。

 選べるものがその4つなので、キィちゃんは仕方がなく『業火の挑発疾駆』を覚える。

 そのスキルは、業火のごとく対象の近くを疾走して挑発することで発動する技だったのだが、テンション天井状態からどん底に落ちたキィちゃんは、何を思ったのかオークの集団に向かって疾走して行くと、オークの周りで「楽園オーク村で ねんね しーなー」と神曲レクイエムを歌って踊りだす。

 それは、『業火の挑発疾駆』のスキル発動条件を満たし……、オークの集団がブヒィー! ブヒィー! とキィちゃんに殺到。

 そこを横から椿が倒しまくることで、一気にレベルを上げることに成功していた。


 さらにキィちゃんは、その途中に自力で『爆炎の挑発連撃ばくえんのちょうはつれんげき』という……挑発スキルも覚えていた。

 『爆炎の挑発連撃』というスキルは、爆炎を浴びせるように挑発する言葉を連続で唱えると相手の注意を自分に向ける技だった。

 実際には、何か言葉を大きな声で連呼するだけで良いことが後々に判明するのだが、テンションのおかしくなっていたキィちゃんは、「ざーこ、ざーこ」と連呼してオークを挑発し始めて、実際の年齢よりかなり幼稚な言動を繰り返していた。

 俺はそれを聞いて、コイツはもうダメだと思ったね!

 『業火の挑発疾駆』の火から『爆炎の挑発連撃』って炎にランクアップしていて、魔物の挑発がしやすく、連呼して叫ぶだけで発動するスキルを手に入れてるんだよ? 

 ほぼ同じ用途のスキルで、しかも発動方法が微妙って凄くない?


 さっちゃんの『水鏡の守り』というスキルは、対象の近くに大きな鏡のような聖なる透明な水で盾を形成する技でかなり有用なスキルだった。

 まあ、俺からすると、聖なる水の盾と説明されるとご聖水を思い出し動揺してしまうので、このスキルを使用して守ってもらう場面に陥らないようにしようと思っている。

 絶対これってさっちゃんの聖水士のジョブから出現してるだろ。


 椿に関しては、合宿前のキィさちと同等の強さを手に入れたので、この合宿の成果が一番あったと言えるかもしれない。

 椿に対して当りの強かった今宵も、テントで一夜を共にした後で、ナチュラルメイクを椿に教えてもらっていた。

 俺たちが小学生の頃と同じとまでは言えないが、かなり仲良くするようになっていた。

 キィさちと東三条さんも椿に教えてもらったようで、テンションを上げていた。

 

 俺は今宵に、ダンジョンでそんな余裕があるのか? と聞いた所、今宵もそれが気になって、はじめは椿を「そんな気持ちでダンジョンに来るなんて!」と罵倒したそうなんだが、たった5分でお手軽にできて気分も上昇するために、逆にやる気アップにつながると言うことだった。

 今宵の魅力が20%ほど上昇したとはいえ(当社比)、化粧一つで仲良くなるこいつら女子連中はチョロすぎないか?

 まあ、今宵とキィさちは、次の日にはその5分が面倒だとすっぴんに戻っていたけどね。


 東三条さんは、今まで化粧をしている所は見たことがなかったのだが、俺が褒めてくれるならと次の日からも椿にお手軽セットをもらって、うっすらとナチュラルメイクをするようになっていた。

 まあ、東三条さんを褒めると、同じメイクをしている椿も褒める必要があるし、毎朝そんなことは恥ずかしくて言っていられないので、化粧のことに触れることは止めている。

 まあ、本番中は寝ている時も目元のマスクは外せないだろうから、俺のこの褒めなきゃいけないの? という葛藤はなくなると思っている。


 そして東三条さんの話で一番の心配事である配信をした場合の一人称問題の練習に関しては、ダンジョン内で変身チェンジして25階層から24階層のオークの集団を倒しに行くかという話になった時に、オークジェネラルとの再戦に興奮して「私様わたくしさま」発言をしてしまう。


 そこから東三条さんは、調子よく一人称に気をつけられていたのだが、オークジェネラルを一人で倒せた時に、「私様やってやりましたわ!」とこちらに向かってガッツポーズをしながらまた言ってしまう。

 俺は東三条さんの一対一をハラハラしながら見ていたので、勝った時に一緒にうぉぉぉ! と言う感じで一人称に気が付かず興奮していたのだが、中三組の三人は普通に指摘していた。

 結局、今宵、キィちゃん、さっちゃんの三人にダメ判定を受けた東三条さんは、変身中に「私様」発言をしそうになった場合に、くすぐり刑が発動する契約魔法が俺との間で結ばれた。


 そんなこんなでダンジョンの攻略最大階数も27階まで上げた俺たちは、矜侍さんのイベントに向けてできる限りの用意をした状態で迎えたと言えるだろう。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 本文外。

 成り上がれの世界では、

『リポップ』……単純な湧き直し。

『リスポーン』……同一個体の湧き直し。

 として扱っています。


 ガンマぷらすにて、『ダンジョンで成り上がれ!』のコミカライズ6-2が更新されています!

 前回の話を忘れたという方は、ニコニコガンマぷらすで6-1話を読んでから、ガンマぷらすの6-2を読むと良いと思います(ニコニコではなくとも普通に前話は読めますが……、あっちも読んでほしいなって)

 正直、続けて読むことで今回の話は良さが出ると思うので、前話からの読み直しがお勧めです。(矜一がカッコいい!)


 また、複数のギフトをありがとうございます。

 貰うとやる気が出るので嬉しいです!

 早めにSSを挙げる予定なのですが、本編が遅いようにね……(本編も早めに更新予定でした……)


 以下、この時点での三人のステータスです。


 <名前>:綾瀬 季依

 <job> :戦士

 <ステータス>

 LV  : 26

 力  :B

 魔力 :D

 耐久 :D

 敏捷 :C

 知力 :C

 運  :D

 魔法 :生活魔法6(UP)、基本属性魔法(火・水・風・土・光・闇・無)(NEW)、空間魔法2

 スキル:身体強化、剛力、ステータス偽装、魔力感知、業火の挑発疾駆ごうかのちょうはつしっく(NEW)爆炎の挑発連撃ばくえんのちょうはつれんげき(NEW)


 <名前>:琴坂 佐知

 <job> :聖水士

 <ステータス>

 LV  : 26

 力  :D

 魔力 :B

 耐久 :D

 敏捷 :C

 知力 :C

 運  :D

 魔法 :生活魔法6、基本属性魔法(火・水2(UP)・風・土・光・闇・無)、空間魔法2

 スキル:身体強化、ステータス偽装、魔力制御2(UP)、魔力感知、水鏡の守り《すいきょうのまもり》


<名前>:十六夜 椿

<job> :従魔剣士

<ステータス>

 LV  : 25

 力  :C

 魔力 :C

 耐久 :C

 敏捷 :C

 知力 :C

 運  :C

 魔法 :

 スキル:剣術5、身体強化、俊足、ステータス偽装、気配察知(NEW)、忍耐(NEW)


 


 



 

 

 

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