第30話

地下研究所に蠢くのは、体を失いながらも、転写という形でこの地に記憶を残され、本人達には生とも死とも取れないまま悪霊とかした怨念の集合体だった。

単体の呪縛霊であれば手間はないが、無数のそれが絡み合い群体となっていると払方は面倒になる。

かといって放置すれば、無害な存在から有害なモンスターに変わるのはそう遠くない未来だ。


「君にはあれが見えないのだな?」

「?、あれとは何ですか?」

「ならいい。」


さて、呪いにもモンスターにもなっていない呪縛霊の群体。

群体として見れば危険性はそれなりだが、単体ではまだ呪縛霊の集団であり、一式では霊体の核を撃ち抜かなくてはならない。

百か千か…あるいは万、まではなくとも一息に始末するには面倒な数には違いなく、一息で始末するのであれば、一式四番【臨界】が最適ではあるが、いくらダンジョンの影響を受けているとはいえあれをここで放てば地下研究所の崩壊は免れない。


「御主人様、こちらでしたか。」


エイダ達が探しに降りてきた。


「……何、あれ?」


エルが呪縛霊の群体を視た。

その異様な存在を前にして尻餅を付く。

こういった悪霊は自分より弱い存在を好む。

一つ一つは大したことないものでも、数で圧されたら幼い魂は簡単にその集団の1つとなる。


いわばこれは霊の雪崩。


一粒一粒は触れれば溶けてしまう雪でも積もり積もったものが一気に崩れ落ちてくる時、その在り方は姿を変える。

呪縛霊としても自らの縛りを破った事で新しい形に在り方を変えなければ消え去ることになる。


互いの存在をかけた、生存争い。


それが小さな世界の中で起ころうとした。


エルside


私はそれを視た。

お姉さん達は気付いていない。

お兄さんは気付いている。

そして、奴等も気付いた。


あれは何?


あれは混濁した魂、穢れであり生者を怨むもの。


どうして、あれはこちらを見ているの?


お前がこの中で一番弱いから。


聞こえる、聞こえるよ?見付けた、見付けたって…。


お前のような弱者は奴らにとって入れ物としては都合がいいからだ。


それって………。


一式・三番【波紋】


エルに迫ってきていた呪縛霊の集団が押し返された。


「エイダ、エルの左目を抑えて上に戻っていてくれ。」

「?、わかりました。」


霊は見えなければ襲っては来ない。

しかし、呪縛霊はその年月を重ねる毎に力を増す。

本来ならこの地下事吹き飛ばしてしまった方がいい。

呪縛霊は、その存在力、呪縛される力によって呪縛の核となるものが変わる。

小さい力は小さいものを起点とし、大きくなるにつれてそれは大きいものへ移ることも可能となる。

今ならこの呪縛霊が核となる物を全て消し飛ばせば、起点を失って無理やりな形で成仏させることができるかもしれない。

だが、それを失敗した時。

もし、仮に地脈を影響を与える存在になってしまうと手のつけようが無くなる事も考慮する必要があった。

すなわち、現状打つ手はない。


「確認だが、君のこの地での目的は君の主がここに来訪した際の歓待と君の存在を認識させるため、この館の存続ということでいいかな。」

「間違いないです。」

「なら、我々は協力し合える。」

「同行の話ですか?」

「いいや。この町を健全に保つための方策の話だ。」


地上に戻ると外が騒がしくなっていた。

どうやら賢獣が再来しているようだ。


「どうした?」

「あっ、いえ…先程の鳥なのですが…。」


自らを賢獣と名乗った大鷲はそれよりも大きな鷲に翼を掴まれていた。


「この地に現れし賢者よ。我は汝との会談を望む。」


館のオートマタ達が殺気立っている。


「君、とりあえず人形達を鎮めてくれ。どうせ、奴らとも話を付ける必要がある。」

「わかりました。」

「エイダ、資料は見付かったのか?」

「はい。こちらです。」


斜め読みをして外に出向いた。


「そなたが賢者か。」

「賢者かどうかはしらないが、話をする気はある。用件もな。」

「ならば、賢者なのであろう。そうでなくば我等と話をする必要はあるまい。」

「そうか、話の前に聞いておくが下に伏せているのが賢獣で間違いないか?」

「左様、この地における現代の賢獣はこの未熟者よ。我は先代の賢獣であり、この大馬鹿者の言葉を詫びに来た。」

「詫び?」

「そうだ、賢者よ。我等はここ数年でこの周辺の獣を狩り尽くす程に困窮している。それにより、一族の大半を失い責任を取って我は賢獣の座から降り死を待つだけだった。……この愚か者が泣きついてくるまでは。」

「それなら良かった。そいつとは話ができないと心配していた。俺達、いや我々は互いに協力できる。その環境を整える為に話をしたい、が。」


先代の賢獣からがりがりの体だった。

それでも品位や権威を失わずにいるのは誇り高い魂だからか。

俺はこの地の賢獣と交渉の場を持つためにダンジョンへ戻った。


トール

【魔術】ショット(一式・通常型(一番)・二番【三連】・三番【波紋】・四番【臨界】、二式・近接型(一番)・二番【波動】、三式・変異型(一番))

【神具】神酒、知識の書、制約の剣

【道具】ディメンションバック(4話)、スマホ(4話)、清水の水袋(6話)、輝きの石(6話)、BPベーシックカタログ(13話)、魔力エアジェットトライク(24話)、魔力エアジェットトライク専用コンテナ(24話)、魔力エアジェット専用ツナギ(24話)

【重要】森の胡桃(5話)、大鬼の涙(21話)

【称号】森の友(5話)、鬼殺し(21話)

【BP】6250-500=5750

(東果ての森→ルミット→シラク→ダンジョン『小鬼の巣窟』→ナーク→トゥレ)


エイダ

【魔法】火魔法(レベル3)ファイアショット

【技能】弓術(レベル5)、蹴り(レベル8)(15話)、採取(レベル5)(16話)、清掃(レベル6)(16話)、房中(レベル6)(16話)、怪力(レベル8)(16話)、高速再生(レベル3)(20話)、軽業(レベル1)(25話)

【道具】短弓、矢筒、短剣、黒のチョーカー(12話)、魔力エアジェット専用ツナギ(24話)

【重要】隠者の誓い(12話)

【称号】忠誠を捧げしもの(12話)


エル(エリッサ)

【技能】運搬(レベル3)、サバイバル(レベル3)、陽動(レベル1)

【道具】左眼『眼石(原石)』(22話)、右腕『悪魔の腕』(22話)、右腎臓『人工臓器』(22話)、上行結腸『魔力貯蔵庫』(22話)、伸縮自在軽量スニーカー(24話)、馬鹿から始めるシリーズ賢者編(24話)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

多世籍企業モスト @96culo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ