番外 休憩
「少し休まれたらいかがですか?」
「え?」
ガチャリと扉の開く音に顔を向けると甘い香りが鼻を掠めた。カタリと食器が触れ合う音。小さな差し込んだ西日がカップに反射して白い壁をオレンジに染める。
視線を上げるとふんわりとした笑みを浮かべる林の瞳とかち合った。
ふっと息を吸い込む。
「何で今更そんなかしこまるのさ」
そして今頭の中を支配している疑問を遠慮なくぶつけた。
「もー宮さんそう言うところですよ」
文句を言いながらも用意してくれたらしいコーヒーとマドレーヌを邪魔にならないところに置いてくれる辺り、やっぱり林は優しいなと実感する。それはそうとどこから引っ張りだしてきたんだその盆。
「戸棚の奥深くに眠ってたんですよ」
「このマドレーヌは?」
「実家に届いたらしいんですけど、要らないからってそのまま送られてきました」
「なるほどね…それで綺麗な作画アニメでありそうな感じのことをしたわけだ」
「そういうことですよぉ!」
恥ずかしさを紛らわせようと大声で言ってから林ははぁっとため息を吐く。笑って機嫌をこれ以上損ねないようにコーヒーを啜る。ガツンと来る苦みに脳がすっきりとしていくような気がした。
「じゃあ邪魔になると思うんで俺は退散しますね」
「あ、林」
やりたいことを終えた林はそそくさと部屋を去ろうとする。その真っ赤に染まった耳に届くように呼び止めると、面倒くさそうに振り返った。
「ありがとな」
林からしたらただの遊びの一環だったのかもしれない。でも決して悪い気がするようなことじゃなかった。だからこそ素直に嬉しかった。
「あ、うん…?」
思っていた言葉と違ったのか、きょとんとした顔をして林は首を傾げる。「林が執事なのも意外と悪くないな」なんて思ったが、今の関係性を無碍にするみたいに思えたので、言葉ごとマドレーヌと共に飲み込むことにした。
(暗転)
類は友を呼ぶ。-宮田と林編- めがねのひと @megane_book
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