第7話 我、友魔になる(後)

「ぐ、ぐーたらって…」


「わ、私は平和的だし…いいと思いますよ…ぐーたら…」


「そうじゃろう、そうじゃろう。 ぐーたらした生活こそ至高なのじゃ」


「でも魔王。 今の状況だとたぶん、ぐーたら暮らすのは難しいと思うよ」


「何故じゃ!? 」


「だって、さっきワタシたちに見せてくれた魔王の記憶…巨獣型魔徒との戦闘を考えると。 魔王の存在は既にクラスB討滅班に知られていると思う。 情報の伝達スピードが速ければ討滅軍本部まで魔王の話は届いてるかもしれないよ」


「ミニューちゃんの言う通り、魔王さんの情報は既に討滅軍まで届けられていると思います…。 今後討滅軍が魔王さんに対し、どのように動くかまでは分かりませんが……」


「どうなるにせよ、魔徒を一瞬で倒せる力を知られている以上平穏な日常ってわけにはいかなそうね。 それこそアンタが望んでいるぐーたらした生活なんて夢のまた夢よ」


「なんじゃと…」


 今になってあの獣を迂闊に殺してしまったことが悔やまれる。


「魔王さん…そんなに落ち込まないで下さい。 どういう意図だったにせよ、結果として魔王さんが居住区の人々の安全を守ったわけですし…これからどうしたらいいか私たちと一緒に考えましょう」


「そうね。 まだアンタの事を信用しきったわけじゃないけど、さすがに目覚めて早々討滅軍に追い掛け回されるのは気の毒だわ。 ワタシもその、力になってあげるわよ…」


「二人とも…。 感謝するぞっ…! 」






 ◇◆◇






「あれ…? 学園からの伝達だ…。 こんな時間に珍しい…」


 ソファーに腰かけ直し、討滅軍とやらに存在を知られてしまったであろう我が今後どうしたらいいのか三人で話し合いを続けていたところ。


 ピロンと。


 未冬が机に置いておいた長方形の板…スマートユニットが音を鳴らす。


「ちょっと確認するね…えっと…」


 スマートユニットを手に、所属する学園から届いたというお知らせを確認していた未冬の顔が徐々に曇っていく。


「なんの連絡だったの? ワタシにも見せてよ~」


 ミニューは膝上に乗りながら、どうにか未冬のスマートユニットを覗き込もうと頭を揺らしていた。


「えっと…それが。 あんまりよくないお知らせかも。 今から三十分後に討滅軍から送られてきた調査班が私たちの寮を一部屋ずつ見て回るみたい…」


「うそっ!? それってもしかして…! 」


「うん…魔王さんがここへ転移してきてることを把握している可能性が高い…かも」


「そうか…」


 二人の会話を聞き、我はパチンと指を鳴らす。


「っ……! 今のは!? 」


「ちょ、ちょっとアンタ!? 急に何したの!? 」


「安心してくれ、お主らの体に害はない。 この建物全体を網羅した強力な錯乱術式を行使しただけだ」


「錯乱術式…? 」


「生き物や物質…さらには大気中のものに至るまで。 全ての魔力の流れを一定時間正常に読み取れなくする魔法だ。 我の錯乱術式はそれに加えて魔力がもたらす情報の改ざんも可能としている。 今から調査班とやらにこの部屋を嗅ぎまわられたとしてもお主らが我を匿っていたと疑われる事は一切ない…安心してくれ」


「でも、それじゃあ…」


「こうなってしまった以上、仕方ないじゃろう。 我は当初の予定通りどこかへ転移する、このままこの場に居てはお主らに迷惑を掛けるだけじゃしな」


「魔王…! でも、このままじゃアンタは――」


「ぬっ! ミニューとやら、お主体が透けているぞ…! どうした、何があった…! 」


「ウソっ!? こんな時に時間切れなんて…! 」


「時間切れ? 何のことじゃ、おい…消えるでないッ! 」


 必死の呼びかけもむなしく。


 光の粒子を散らしながら忽然と姿を消してしまった白猫ミニュー


 出会ったばかりの我はともかく、ミニューとは長い付き合いであろう未冬は今の事態で相当取り乱しているのではと一旦転移を中断し。


 彼女を落ち着かせようと声をかける。


「い、いいか未冬。 我も驚いたが気を強く持つのじゃぞ……未冬? 」


「そうか…友魔界…その手があった…! 」


「お、おい。 未冬! ミニューが消えてしまったんじゃぞ、考え事をしてる場合か! 」


「あっ。 ミニューちゃんは帰っただけなので安心してください! それより、時間がありません。 魔王さん……私と――





「私と契約して、友魔になりませんかっ…! 」






 ◇◆◇



 ~人物メモその1~


 ・名称 : グランドール

  種族 : 魔族(魔王)

  年齢 : 不明

  性別 : 男 


 ▼


 本作の主人公。


 190センチ近い身長をしているが魔族の中ではそこまで高身長というわけではなかった。


 筋肉質の肉体だがゴリゴリのマッチョではなく彫刻のようにバランスの取れた綺麗な体つきをしている。


 褐色の体に白い頭髪がよく映える。


 エメラルドグリーンの瞳は魔眼の力を行使する時だけ黄金に染まる。


 頭部から映える二本の捻じれ角、本人は日ごろ邪魔だなと思っているがいざという時はビームも打てる心強いトレードマーク。


 顔付は強面気味ではあるがイケメンの部類。


 本人は自分がイケメンだという自覚はなくほとんど魔王城に引き籠っていたことも重なり、同族…とくに同じ魔王たちの間で人気があった事に全く気付いていない。






 ・名称 : 山本 未冬(やまもと みふゆ)

  種族 : 人間

  年齢 : 十六歳

  性別 : 女


 ▼


 本作のヒロインの一人。


 魔徒に対抗する討滅士のたまごで新都日ノ咲学園の生徒。


 焦げ茶色の頭髪を三つ編みおさげにしており、眼鏡をかけていることもあって大人しい文学少女のような印象を受ける。


 普段は控えめでオドオドしていることも多いが、意外と頑固な部分もあり譲りたくない事に関しては強い執着をみせる。


 初対面であるはずの魔王に対しどこかで会ったことのあるような不思議な感覚を覚えており、そのおかげで突然部屋に現れた不審者こと魔王への恐怖も軽減されていた。

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はぐれ魔王はぐーたらライフを送りたい~ 目が覚めたら魔族は絶滅してたけど我は元気です ~ 猫鍋まるい @AcronTear

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