夏が連れてくるのは儚さに包まれた美しさ
闇野ゆかい
第1話夏に感じる気持ち
窓を全開にして、風が吹き込んでくれるようにしていた。
夏にしては涼しさを感じる風が網戸を吹き抜けて、肌に風が当たり涼しい。
ふぅー、気持ちいいぃ~!
ニュースをほとんど観ないから、何故涼しい風が吹いているのかわからない。
扇風機さえ回さずに過ごせるほどの風が自室に吹き込んでいて過ごしやすい。
ふと、あの頃の想い出がよみがえってきた。この時期、夏になるとよみがえる辛い想い出──の記憶だ。
※※※
私は幼い頃、正確には小学三年の頃まで特定の同級生とは仲良くよく遊んでいた。
夏という季節にも関わらず草木がさわさわと音をたてるほどの心地よい風が吹いていた夏休みのある日、外で遊ぼうと約束していた友人がいくら待っても遊び場に姿を現さず、帰ろうと振り向くと同い年くらいの女の子が笑顔でこちらに視線を向けていた。
「一人?あなた」
「うん。そうだよ、あなたも一人なの?」
彼女が風鈴みたいな心地よい声音で訊ねて来たので、すかさず返事をすると手をとられ道路まで走り始めた。
「一緒に遊ぼうよ、ここにくるの久しぶりで、どんな場所があるか紹介してくれない?」
「えっ?うん、じゃあ──」
私は彼女に言われるがままに近所にある店やお気に入りの場所を紹介していき、最後にとっておきな場所──幼い子にはきつい傾斜の道をのぼり、生い茂る草を掻き分けぽつんと建っている立派な木製の小屋まで連れてきた。
「あなたが建てたの?こんな立派な──」
「私というか、お友達と一緒に建てたの。この秘密基地っ!『あの花』ってアニメをみて作りたいなぁと思って」
「すごいねっ!知ってる!私もみたことあるよ、それ。すごい泣いた、しくしく、ぽろぽろって」
「みたことあるんだ、私もいっぱい泣いたよ。秘密基地に入って入って」
私は彼女と意気投合したことに興奮して、彼女を秘密基地へと招待して、一時間ほど話し込んだ。
秘密基地を後にして、秘密基地より上に道が続いており、丘の頂上に到着すると二人で両手を繋ぎ合いながらぐるぐる回った。
回り終えた私達は、その場に座って青空を仰ぎみながら、風を肌で感じながら深呼吸をして楽しく会話を交わした。
「明日から一緒に遊ぼう、ミズハちゃん」
「うんっ!遊ぼう、ミユキちゃん」
と約束を交わし、見下ろした絶景に声を弾ました。
翌日からミユキと遊ぶようになり、親から借りたカメラで色々と美しい景色を撮ったり、昔ながらの小さな駄菓子屋でお菓子やアイスを買ったりした。
二週間ほどが経ち、あと数日で夏休みが終わりを迎えるといった日──あと30分で別れるとなったとき、彼女の口からある言葉が発された。
「今まで楽しかった。ミズハちゃんとはもう逢えなくなるの、楽しい想い出をありがとうね。これから逢えなくなるけど、ミズハちゃんに絶対手紙を送るからっ!ミズハちゃんも手紙送ってね、楽しみにしてる!」
これが私の住んでるとこだから、と笑みを浮かべながら涙が零れないように必死にこらえ、ノートの端をちぎったような紙を渡してくれた。
彼女の手は震えており、私もこらえていた涙が溢れだし、二人して儚さを感じる夕焼けをバックに抱き締めあった。
彼女が地元へと帰っていった日以降、喪失感が消えもせず薄れもせず、美雪の笑顔や美雪の色んな表情、美雪の声、美雪の人形みたいに美しい肌や髪の毛が鮮明に、脳内へ──瞳に焼き付いていた。
一年後、二年後、三年後と美雪から──彼女と出逢った日にちに一通の手紙が届いた。
手紙が順調に届けば五通目になるはずの年に毎年送られてくる封筒と同じものが送られてきたが、宛名から差出人と果ては便箋に書かれていた文字が彼女の筆跡と違う手紙だった。
便箋に書かれていたのは、
美雪と短い間だけど仲良くしてくれてありがとう。
受け入れられないと思うけど、美雪はもうこの世に居ないの。信じられないと思うけど本当のことなの。
私が娘の異変に気付けず、彼女の苦しみを理解できずに死なせてしまって。
悲しくて、辛くて、いつか逢えるのを楽しみにしていた貴方に、眞中さんに辛い現実を突きつけるようなことをしてしまい、申し訳なく思っています。
娘を、美雪を救えなかった私をどうか......
三春裕子
といったものだった。
三春家の連絡先も知らず、美雪の母の顔さえわからずじまいで真相は知ることができずに25歳を迎えた私。
胸のうちにしこりができたかのような感覚を抱きながら、もやもやとしながら
美雪が生きていれば......
こんな日は──涼しい風が吹く夏は暑さと楽しい想い出を儚く変えていく季節だ。
夏が連れてくるのは儚さに包まれた美しさ 闇野ゆかい @kouyann
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