先程まで無風だったのが嘘かのような突発的な強風が正面から吹いてきて、眼を瞑り左腕で風を防ぐ。
正面で僕を見据えているであろう女性の表情を窺えない。
彼女が穿いているフレアスカートがばさばさと強風の影響を受けるのが聴こえる。
それと重なり桜並木の樹々の枝もざわざわと揺さぶられる物音がする。
強風が止んだのを感じ、左腕を下ろし眼を開けた。
彼女の額の端の前髪より伸びている髪が乱れたままになっており、髪を整えようとしない彼女。
「……」
「……えっと——」
「シオギくん、もういいよ……」
僕が訊ねようとしたのを、憤りを含ませたような沈んだ声音で遮る彼女。
「もういいって……何のこ——」
「私が……ばかだっただけで。あなたは、悪くないから……」
君が、由依が馬鹿……なんて。僕が悪くないなんて、そんな悲痛な顔で言われて受け入れられるわけ……ないじゃないか。
薄着で過ごせる陽気の日であるのに、肩を上下に慌ただしく揺らし、顔色も悪くなっていく彼女。
その彼女が発した言葉は疑わずにはいられない。
「由依待っ——」
立ち去ろうと僕に背中を向け、歩き出した玖茂に腕を伸ばし呼び止めるが聞き入れられずに彼女の後ろ姿は小さくなっていった。
玖茂の後ろ姿が遠のいていく光景が、以前も見たようなデジャヴに感じた。
彼女の姿——輪郭が二重三重の残像を見せた。