第12話 エピローグ

ここにまた一人の男がたどり着いた。

名前は川島豊ーー。

彼もまたこの世界で、罪を改めなければならない。

案内人は言った。

「この世界ではウソをついてはいけないーーお分かりですね?」

彼はこの世界に来るのは2度目だ。

「あぁ」

「それでは裁判を始めましょうか」

彼を室内に招き入れると、案内人は走り去っていった。

室内に入ると、豊は堂々と宣言を始めた。

「この裁判で私は、ウソをつかないようにします」と。

「ーーそれでは開廷」

裁判長が言う。

俺の罪を裁く裁判が始まった。

「それでは、あなたの名前、没日、そしてどうして死を迎えたのか?話しなさい」

「名前は川島豊。俺は昨日、3月20日に死んだそうです。自殺です」

「それでは、あなたはなぜ死を選んだのか?話しなさい」

「ーー俺は、娘を虐待してしまいました。妻の姓になった事で、不満ばかりが募っていました。虐待中に彼女は突然いなくなりーー目の前から彼女がいなくなった事で、恐怖を感じました。それで自ら死を選ぶ事にしたんです」

「奥さんの姓ーーでは、今の川島という名字が奥さんのものですか?」

「違います。妻の名字は相川です」


裁判長たちの間でざわついている。

「ーー先程の幸枝ちゃんを連れてきなさい」

裁判長が少し間を置いてから言った。

「証人を呼ぶため、この法廷を10分間、休憩します」

「ーーは?証人なんて前回の時は呼ばなかっただろ?」

「ーー静粛に、静粛に」

裁判長が被告人を黙らせる。


5分後。

幸枝が到着する。

案内人が幸枝に状況を説明する。

「ーー今ね、君のお父さんだと思うんだけど、裁判を受けに来てるから、お父さんかどうかの確認をしてほしいんだけど、いーかなぁ?」

「ーー会いたくない。」

幸枝は軽く横向きに首を振った。

「それじゃ別の部屋から顔だけ確認してくれる?」

「話さなくていーなら、、」

幸枝はしょうがなく頷いた。

父とはもう関わり合いたくない。この世界に来て、幸枝は初めてそう思った。


10分程度の時間が過ぎ、川島豊の法廷がようやく始まった。


「それでは始めます」

「あなたの娘さんの名前は?」

「幸枝です。」

「なぜ、虐待と知っていながら、娘さんを虐待したんですか?」

「ーーうまく行っていなかった妻に、あまりにも似ていたから、、」

豊はうつむいた。

「ただあの時、幸枝が突然目の前からいなくなって、俺はすごく慌てた。ーー目の前にいて当たり前だと思っていた幸枝が消えて、俺の頭の中が真っ白になった。」

「被告人は、どう思ったんですか?」

「俺はその時気づいた。ーー幸枝を大切に思っていた自分に、、。いつか俺が守り続けたいと思っていた人の子なのだとーー」

「もう一度、幸枝ちゃんに会えるとしたらどーしたいですか?」

「今度はちゃんと幸枝を大切にしていきたい」

「あなたからの虐待を受け、傷ついた本人はもうあなたには会いたくないと言ってますが、、」

「ーーそれは、普通の感情だと思います。俺が悪かったので、、」

豊は思い余って涙が溢れるのを止められなかった。

何より会いたくないとまで言われている現実が悲しかった。ーーもう会えない。俺にはもう彼女に償う事は出来ないのか、、。

豊はそんな思いを巡らせていた。

「それではこれで最後の質問です」

「はい」

「あなたの選ぶ人生は光ですか?それともー?」

「ーー闇だと思います」

「それはなぜですか?」

「生きていたとしても、幸枝に嫌がられ、死んだとしても、幸枝には忘れ去られる。ーーどの道、俺にはもう光の指す場所はないと思うからです」

「ーー以上を持ちまして、被告人、川島豊の審議を終えます。判決が出るまで少しお待ちください」

その法廷は閉廷した。


俺はもうやりきった気持ちで一杯だった。


控え室に通され、被告人の顔を見ていた幸枝は重い口を開いた。

そこには案内人が立っている。

「この人が私の父です」

「あなたが選べばいいと思います。二度と会いたくないと言うのなら、この国に止めましょう。ですが、許す気があるのなら、日本に帰しましょう」

まだ5歳の子供に決断を委ねるのはどうなのか?裁判長の意向はわからなかったが、、裁判長がそう言ってるからには、そーするより他はない。

「ーーどーしますか?」

案内人が急かすように聞いた。

「ーー私、、もう二度とあの人に会いたくないし、関わりたくない。ーーそれを約束させた上で、日本に帰してほしい」

「なんで日本に返してほしいの?ーー会いたくないのに?」

案内人は不思議そうに言った。

「私は会いたくないけど、お母さんは会いたいかも知れないからーー」

なるほど。

母を思っての決断だったのかーー。

5歳にしては出来すぎた子供だと思った。


「この裁判に、協力してくれてありがとうね」

案内人は頭を下げた。

「いいえ。あの人はどーなるの?」

「君のお父さんかな?」

「あんな人、お父さんなんかじゃないけど?」

「もう大丈夫だよ。お父さんには約束させるから。心配しないで」

「私、約束するのを見るまで、帰らないーー」

頑なにそう言い張る幸枝がいた。

たかだか、五年の人生でなぜこんなにもシッカリしてしまっているのだろう?


ーー判決。


「被告人、川島豊。判決を言い渡します」

「はい。お願いします」


「あなたの判決は、生ですーーしかし、条件があります」

「ーー条件とは?」

「今後、娘さんには会ったり、電話をしたりしない事です」

「ーー手紙は?」

「手紙くらいならいいでしょう。反省するのであれば、それを伝える事は大切でしょう」

「わかりました。幸枝には、もう二度と会いません。電話もしません。約束しますーー」

「必ず守っていただけますね?」

裁判長が、確認をする。

「俺はウソをつかないーー絶対に」

豊のその目は真剣そのものだった。

「それを信じましょう」

「それでは案内人について行ってくださいーーお疲れ様でした」


ーー終わった。俺の裁判も、幸枝と歩くはずだった未来も何もかもーー。

豊はこれまでの自分の人生を悔やみ、動けなかった。

「俺、しばらくここにいていいですか?」

豊が案内人に聞いた。

「構いませんよ。頭の中が整理出来るまでならーー」

「あぁ、それだけで充分だ」

目から涙が溢れだして止まらなくなった。

誰もいない。今だからこそ泣けるーー。


ーー俺はこれから一体どーするべきなのだろうか?


その時。

証人として連れられてきた幸枝は、母のもとに帰る為、案内人の後ろを黙って歩いていた。

「ねぇ、案内人のおじさんーー」

幸枝が突然口を開いた。

「なんですか?」

案内人は笑顔を浮かべている。

「もう、私はこの世界に来なくていーよね?」

「それは幸枝ちゃん、あなたがどんな風に生きていくか?によって未来は変わるかも知れませんが、、少なくても今と同じように生きていたら、この世界には来なくてよくなりますよ」

「ほんと?ーーそれじゃ私、このままで生きていく。あの人の様にはなりたくないから」

「大丈夫ですよ!ーーシッカリ強く生きて行ってください」

そう言って、案内人は幸枝の頭を軽くなでた。

「頑張るーーおじさん、ありがとう」

幸枝はそう言って、母の待つ日本に帰って行った。



その頃。

日本では、またしても幸枝が行方不明だと捜索願いが出されていた。

「ーーただいま」

「幸枝、あんたどこに行ってたの?またいなくなったのかと思って、捜索願い出しちゃったわよーー」

母は捜索願いなんて言う難しい事を言っていたが、幸枝にはさっぱりわからなかった。

「ーー心配ばっかかけて、ごめんなさい」

幸枝は深く頭をさげた。

「いーのよ。これからは出かける時は、ママにお話して行ってね」

「はい」

「じゃ、ご飯にしましょ。手を洗ってきて」

「はーい。今日のご飯は何?」

「幸枝が大好きな唐揚げだよ」

「やったー」

急いで手を洗うと、キッチンにあるイスに座った。

「ーーいただきます」

その日は母の布団に入り込んで、幸枝は眠った。

そこには、これまでなかった安心感があって、いつもより深い眠りの中で、幸枝は久しぶりに夢を見た。

まだ幼かった頃、家族が幸せに満ちた笑顔の中にいた日の夢をーー。

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命の選択(一応、完結)これから読み直しまーす😀 みゆたろ @miyutaro

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