"にょろにょろ様"のおはなし

みこと。

第1話

 太陽にほど近い場所に、その島はありました。

 どこまでも青い海、白い砂、命あふれる緑の森。


 島に住むラキとサーリは、仲良しの男の子と女の子。

 ふたりはいつも一緒に遊んでいました。


 村の守り神、"にょろにょろ様"といっしょに。





 "にょろにょろ様"は、大きな大きなヘビでした。

 とても陽気な神様で、村の大人たちとお酒を飲んで騒いだり、村の子ども達と笑いあったり。

 皆と、いつも楽しく過ごしていました。


 深い森に囲まれた村は、森の怪物たちにねらわれましたが、いつも"にょろにょろ様"が助けてくれていました。

 広い海に囲まれた村は、海の怪魚たちにおそわれましたが、いつも"にょろにょろ様"が守ってくれていました。


 だけど、ある日のこと。


 "にょろにょろ様"は、何万回目かの脱皮だっぴに、失敗してしまったのです。


 皮がうまく脱ぎ切れず、皮膚ひふに穴がいて、そこから病魔にやられました。


 "にょろにょろ様"は、いなくなってしまいました。





 それからです。

 村は、いろんな脅威きょういにさらされるようになりました。


 木の実や獲物えものを求めて入った森で、怪物に追われ、魚をりたい海で、あばれる怪魚になげく。


 困った村人たちは、"次の神様"を探すことにしました。



 そして、大きなカエルの神様を選びました。


 けれど、カエルの神様は、"にょろにょろ様"とは違いました。


 "村を守るかわりに、人の子を差し出せ"と言いました。



 村では話し合いがおこなわれ、カエルの神様に守ってもらうお礼には、可愛かわいいサーリが指名しめいされました。



「そんなのダメだ!!」


 サーリが大切なラキは、強く反対します。

 けれど、大人たちは聞く耳を持ちません。



 ラキは、"にょろにょろ様に帰ってきてもらえたら"と、思いました。



 そんなラキには、昔、村のおばばから聞いた話がありました。



 "島の奥地おくちき出る七色の綺麗きれいな水には、イノチをあたえるフシギな力がある"。



 ラキは、仲間の子どもたちに手伝ってもらい、植物のつるんで、大きななわを作りました。

 その縄に、"にょろにょろ様"が最期さいごのこした皮をかぶせました。


 まるで、"にょろにょろ様"が戻ったようです。


 このなわかわに、"イノチの水"を使えば、きっと"にょろにょろ様"は生き返るに違いありません。



 村からそびえるように頭をき出した"にょろにょろ様"の人形に、森の怪物たちがおののいているすきに。


 ラキは森に分けりました。


 "イノチの水"を探しにいきました。










 ラキがやっとのことで、"イノチの水"をんで戻ると、村は大変なことになっていました。


 "にょろにょろ様"の人形に気づいた大ガエルが、怒って村の家々をこわし、人々を追いかけていたのです。

 大ガエルは、"にょろにょろ様"のことがずっときらいでした。だから、人形を作った村人に、腹を立てたのです。


 なんということでしょう。

 村を守ってくれるはずの大ガエルは、森のどの怪物よりも、海のどの怪魚よりも、おそろしい存在そんざいでした。



 大ガエルの目の前には、サーリ。




 サーリが飲み込まれる!!




 サーリを守るために大ガエルの前に飛び出したラキは、簡単に吹き飛ばされてしまいました。





 そして。


 手に持った"イノチの水"ごと、"にょろにょろ様"の人形の口に、すっぽりと。

 入ってしまったのです。






 次にラキが気がついた時、ラキはとてもおどろきました。


 だってラキは、大きな体の"にょろにょろ様"になっていたのですから。




 "にょろにょろ様"になったラキは、暴れる大ガエルをおささえつけ、げ、やっつけました。






 村は、静けさを取り戻しました。


 "にょろにょろ様"が生き返ったと、村人たちは大喜びしました。


 だけど、ラキは困ってしまいました。


 どうやったら、元の姿に戻れるか、わからなかったです。






 悲しむラキに、そっとサーリが近づきます。


 すべてを見ていたサーリには、かえってきた"にょろにょろ様"が、ラキだとわかっていたのです。




 

 サーリは、"にょろにょろ様"になったラキのほほに手を当てて、言いました。



「ラキ、ラキ。あなただけを"にょろにょろ様"にはしない。私も一緒にヘビになる。さあ、私を食べて」



 ラキはびっくりしました。

 サーリを食べるなんて、そんなこと出来できるはずがありません。


 大ガエルからサーリを助けたのは、自分が食べるためではないからです。


「そんなことできないよ」


 サーリ、君にはずっとずっと生きてて欲しいんだ。これからも、幸せに笑っていて欲しいんだ。




 ラキはそう言って、ポロポロと涙をこぼしました。




 すると。

 涙は、ラキの、"にょろにょろ様"の体をつたって、お腹の近くにんでいきます。



 ペリ


 ペリペリペリ……





 涙が流れったその場所から。


 "にょろにょろ様"の皮がめくれ、やぶれていくではありませんか。




 お腹の部分は、"にょろにょろ様"が脱皮だっぴ失敗しっぱいした場所でした。



 ほころびた部分から、皮がけ、"にょろにょろ様"の皮は、花びらのように細かく、りに千切ちぎれていきました。



 皮が、なくなった後には。



 ラキが立っていました。

 元の、人間のままの姿で。



 植物のつるで作ったなわが、ズドドンと地響じひびきを立てながら、うしろにくずれ落ちます。





 ラキとサーリは抱き合いました。


 固くまれたなわよりも、強く、きつく。





 遠巻きに見ていた村人たちが、そろりそろりとふたりを囲み……。

 何が起こっていたのか、すべてを知りました。





 その後、村には、魔物よけとして、大きな縄が飾られるようになりました。

 縄は、神様の縄として、今日も村を守っています。


 でも、本当に村を守るのは、人々の想いです。



 ラキは村長になり、サーリや村の皆といっしょに、"にょろにょろ様"のお話を伝えながら、頑張がんばりました。



 島の村は、末永すえながさかえたということです。





 <おしまい>

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"にょろにょろ様"のおはなし みこと。 @miraca

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