第3話 ドゥクドゥクドゥクドゥク

「yo,耳かっぽじってよく聞きやがれ、

 互いに距離を置く? ふざけんな、

 愛を知らない憶測だけだ、

 お前がもててる男はどこだ、

 今からお前のきじを薙ぎ払う――」


 みるみる顔色が変わる彼女。もう止まんねーわ。


「お前がもてるのは世界で一人、

 目の前にいるこの俺だけだし、

 つまりはまな板の恋と同じ、

 ぺちゃぱいのお前とかけたの分かるか?」


 ここで、観客(喫茶店の客)が湧いた。掛詞と縁語パンチラインが決まった瞬間だ。


「はあっ?!」怒りマックスの彼女。真っ赤な顔に、再びディスが――


「yo,びびってやがる、

 お前の焦りがススキを揺らす、

 好き者、好きな俺を惑わす

 令和に響かす愛のプロポーズ――」


 再び歓声。最高潮バイブス満タンの俺。


「あんた馬鹿じゃないの! しかも、お客さんの前で、舐めてるでしょ?!」


「客もお前も舐めちゃねー、お前は俺のけつの穴を舐めろ」


 爆発する歓声。


「そんな意味で言ったんじゃないわっ!」思い切り右手を振りかぶる。


「ボディタッチは禁止だ嬢ちゃ――」


 彼女の熱いアンサー(ビンタ)を覚悟して、ぎゅっと目を閉じるが、一向に頬に熱い刺激がやってこない。


 あ、あれ? 依然、頭の中で鳴りやまないビートを感じながら目を開けると、彼女は下を向き、片足でリズムを取りながら、小刻みに上下に揺れていた。

 その上下運動は、なぜかビートのリズムと合っていて。


 おいおい。この奇病って、男だけに現れるんじゃなかったのかよ。


 ゆっくりと表をあげた彼女は悟ったように笑っていた。


 一筋の汗と同士を得た喜びにココロオドル。

 彼女と初めて会った日を思い出す。


――ねえ、知ってる? 和歌ってね返歌があるんだよ。


 あの時も笑っただけだったよな。

 自分だって色々とはぐらかせてきたことも多かったぞ。


 だから。


 訊かせてくれよ、お前のアンサーを。


「yo,あんたこそ耳かっぽじってよく聞きなさい――」


 俺たちはきっとこれからもうまくいく。


 鳴りやまない歓声の中、二人の軌跡ビートが走り出す。


 了

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やっぱりあなたを踏んじゃうのっ!(角川武蔵野文学賞最終選考) 小林勤務 @kobayashikinmu

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