蓬莱の玉の枝

夏伐

蓬莱の玉の枝

 健康のために始めたウォーキング。


 休みの日は近くの山まで車で行って散策コースを息抜きがてら歩くことにしている。これが最近の俺のブームだ。


 夏の蒸し暑さから解放されて、澄み切った空気に包まれた木陰の中を歩く。


――ポトリ


 何かが落ちる音がした。


 時折、毛虫まみれになっている木が枝がぶつかったり、重みに耐えきれなかったりしてボトボトと虫を落ちてくることがある。


 毛虫には毒があるのは有名な話で、俺も何度かかぶれたことがある。


 それに、服の中に毛虫が落ちて来たり、髪に毛虫が落ちてくるっていうのは想像以上に恐怖だ。俺は足早にそのエリアを立ち去ろうと思った。


――ポトリ、ポトリ


 また何か落ちてきている。

 毛虫ラッシュかもしれない。


 早く立ち去ろう、そう思い足を動かすスピードを速めた。


――ゴッ


 俺の頭に弾丸が落ちてきた。


 どう考えても毛虫じゃないそれは、地面に落ちて転がった。パチンコ玉だった。


「は?」


 どうしてパチンコ玉が?


 見ればそこかしこに銀色に輝くピカピカの丸い玉が落ちている。ポトリ、と音がしていたのは地面に積もった葉に落ちた音だったのだ。


 上を見れば、何かおかしい。


 変な葉があった。幹は普通だから気づかなかったが、葉がおかしい。実っている木の実がパチンコ玉だ。それが金の葉の間に埋もれながら太陽の光を反射する。


 なんていうかゆるふわとしたデザインの木だった。


 その一本に近づくと、さわさわとした音を立てながらパチンコ玉を落としている。


「なんだこれ……」


 ふと、これは新種の木なのではないか、というワクワクした気持ちになった。

 スマホで写真を撮るが、ブレてしまいちゃんととれなかった。


 パチンコ玉を拾い集めて、急いで車に戻った。


 休みの日に、仲の良い悪友の家に押し掛けた。昼まで眠っていた彼を引きつれてパチの木へと向かう。


「夢でも見たんじゃねぇの?」


 そういう彼に拾ったパチンコ玉を見せた。


「これが証拠だ!」


「お前、店から玉を持って帰るのはダメだって毎回言ってんじゃん」


 友人は呆れながら、俺を見る。


 彼はパチ屋のバイトを渡り歩いているので、その度に俺の行くパチ屋も変わる。そして最近は玉の預かりサービスなんかも始まったので注意はされていなかったのだが、今回のでその信用もなくなってしまいそうだ。


「本当だって!」


 そう言って、何度も散策コースを行き来したが、例の木を見つけることは出来なかった。


「はいはい、夢だな」


 友人には言い切られてしまって、変な悪戯だと思われてしまった。




 その後、俺は怖い話や不思議な話をした時にこの話をすることにしている。


 もちろん拾ったパチンコ玉は持ち歩いている。


 ある日の合コンのことだ。


 持ちネタとして、その話を披露すると、女の子の一人が言った。


「蓬莱の玉の枝みたいですね」


「ほーらいのたまのえ?」


「銀色の根に金の茎で白い玉の実がついているものです。全然違いますけど、それ思い出しました」


 よく理解していない俺に女の子はため息を吐いた。


「竹取物語、昔話のかぐや姫。中学で習いますよね」


「あ、あ~。うん、あれね」


 俺の適当な話に女の子は少し気分を害したようで、そっぽを向いて酒を一口飲んだ。


 だがその後、俺は例の女の子と付き合うことになった。


「どうして付き合ってくれたの?」


「かぐや姫も宝物を持ってきてくれた人と結婚するって言ってましたし」


 実はラインを交換した後、同じ趣味だということが発覚した。


 その後、彼女が行きたいという場所に一緒に行って色んな思い出を作った。物をあげたことはほとんどない。


 俺との思い出を宝物と言ってもらえたようで、俺はパチンコ玉に感謝した。


 彼女が俺に話しかけてくれるきっかけだから、今もそのパチンコ玉を大切にしまっている。


 時々ウォーキングコースで上を見ることがある。

 あのゆるふわな木のおかげで今の俺がいる。また出会ったら今度は感謝を伝えてみようと思う。

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