名付け大明神 夏

「大明神様、大明神様ー!」


「うむ、我こそが、名付け、あ名付け大明神であるぞぉお」


「大明神様毎日暑うございますね」


「うむ」


「ですが今日も今日とて天界に新たな命が生まれましたので、その者たちの名前を頂戴したく参りました」


「うむ」


「では早速一人目、よろしくお願いいたします」


「うむ。ええい! 命名『カラダノホテリ』ィィィ……」


「承服しかねまするぅぅぅ」


「駄目? これは駄目かな?」


「いや、駄目ですよ、カラダノホテリ? え? 暑いの? だったら涼んでください、水分も摂って、無理したら駄目。熱中症になったら大変ですよ」


「うん、そうだよね。だから油断しないでちゃんと対策してほしいなって思って」


「その通りですけど、だとしたら肝心な部分が抜けちゃってるじゃないですか。対策してほしいって言うか火照りそのものになっちゃってるじゃないですか」


「そっか」


「やり直してください」


「うん」


「いいですか?」


「うん」


「では一人目よろしくお願いいたします」


「うむ。ええい! 命名『メマイトタチクラミ』ィィィ……」


「承服しかねまするぅぅぅ」


「駄目かな?」


「駄目です。え? 眩暈と立ち眩み? 具体的な症状? それもうその子軽度の熱中症になっちゃってませんか? だから無理しないでって言ったでしょう」


「うん、なんか、ふらつくって言うかちょっと気持ち悪いって」


「もう駄目じゃないですか。これ以上悲惨なことになる前にちゃんと水分摂って涼しいところで休ませてください」


「そうだよね。でもだからこそそう言うのに強い子になって欲しいなって」


「何言ってるんですか? そう言うのに強い子なんていません。慢心を生むだけです。それに名付け的にも駄目です。また同じ失敗してるんですよ。やっぱり肝心な部分が抜けちゃって症状そのものになっちゃってるんですよ。やり直してください」


「うん」


「では一人目よろしくお願いいたします」


「うむ。ええい! 命名『ズツウカラノハキケ』ェェェ……」


「承服しかねまするぅぅぅ」


「駄目? 今度は頭痛と吐き気にも強い子になって欲しいって思ったんだけど」


「いやいやいやいや、それらに強い子になんかならなくていいです。しかも今回も完全に具体的な症状になってますって。大体ね、嫌でしょズツウカラノハキケなんて。

夏の自己紹介でこの名前言われたら、あれ? この子、大丈夫かな? もはや中度の熱中症なのかなって思うし、なんなら救急車呼ばれますよ。なんて言うか願いがね、やっぱり裏返っちゃってるんですよ。あのですね、いいですか、変な名前だと結局あとで改名大明神様のところに行かなくちゃいけないの知ってるでしょ? 二度手間です二度手間。大体またこの間もなんですか『ポカリノミオ』って。改名大明神様笑ってましたよ。ちゃんとポカリ飲む子になってほしかったんですか? どう言うことですか? 確かにスポドリや経口補水液による水分補給は大事ですけど、あんた飲みたかっただけでしょ」


「ごめん」


「欲求を抑える」


「うん」


「ピンポイント過ぎる願いも入れない」


「うん」


「一度に吸収できる量は限られてるから、こまめに水分補給する」


「うん」


「無理しない」


「うん」


「エアコン入れる」


「うん」


「ちゃんと寝る」


「うん」


「油断しない」


「うん」


「いいですか、ちゃんとやってくださいよ」


「うん」


「では一人目よろしくお願いいたします」


「うむ。ええい! 命名『アイスコーヒーノミタイ』ィィィ……」


「承服しかねまするぅぅぅ」


「駄目か」


「駄目でしょ。そもそも名前感ないし。それに一応言っときますけどカフェインには利尿作用があって体の水分を排出しますから水分補給には向かないですからね。水分補給とは別に適度に楽しんでくださいね。熱中症対策としてはノンカフェイン飲料を意識して水分補給を。ではやり直し」


「うん」


「では一人目よろしくお願いいたします」


「うむ。ええい! 命名『モウシゴトヤメテヒショチデゴロゴロシタイ』ィィィ」


「承服しかまするぅぅぅ。完全にあんたの願望じゃねえか! やり直し!」


「うん」




 そんな神々の暑い夏の仕事風景。

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小話集。 てつひろ @nagatetsu

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