第3話 始まったばかり

◆アーデアル世界

下界


双子のうち、女の子はルリ、男の子はシンと名付けられ、生まれて5年がたった。


シンは良く笑い、気立てもよく、皆から可愛がられたが、ルリは、感情を出す事がなく無表情で、皆からは気味悪がられ、疎まれた。


しかし、絶えずシンがルリの側にいる事で、ルリが苛めなどを受ける事は無かった。


だが、戦乱の世。

ある日ついに、村に隣国ダハルの侵略軍が突入してきた。

両親は皆と同じ様に、二人を連れて避難を始める。


「お前さん、早く逃げんだよ」

「ま、まて、今、行く!」

ルリとシンの手を引いて、村の外に避難する二人。


パシッ「が?!」、「あ、あんた!」

1本の矢が、男親に刺さる。

倒れ込む男、あわてて男に縋る女。


シンはルリを抱え、矢からルリを守るようにうずくまる。


周りは火の手が上がり、次々に矢に倒れ込む村人達。

双子の周りは、阿鼻叫喚の残酷な状況。

だが、それでもシンに抱えられたルリは、相変わらず無表情だった。


「あんた、あんた、あんたーっ!」

どうやら男親は、亡くなったようだ。


「殺せ!村人は皆殺しだ!火を放て!」

ザシュッ

「ぎゃあ!」

たった今、女親が切り殺された。


隣国の軍は約3万、1000人あまりの村は、一溜りもなかった。


その先陣部隊長アークスは、その村の中央に動く小さな人影に小首を捻った。

「なんだ?あのガキ供は?」


アークスは弓を取ると、その子供シンに矢を放った。

だが当たる直前に、別の方角に矢が飛んでいってしまう。


「なんだと?!面妖な!」


アークスは馬を降りると、剣を握り双子の前に立った。

そして剣を大きく振り上げると、それを一気に振り下ろす。


ガキンッ


剣が折れ、アークスは目を見開いて驚く。


「ばかな?!おのれ、化け物!」


アークスは、部下数人に双子を取り囲わらせ、槍や剣で双子を斬るように指示した。


間もなく、数人が二人を取り囲み、各々が剣や槍で攻撃するが一向に歯が立たない。


だが、偶然か。

シンの腕の隙間から、僅かに剣の先端がルリに触れた。


ブシッ


僅かにルリの頬から、血が滲む。


『『あーっ!!』』


その時だった。

ルリが、初めて喋ったのだ。

いや、それは喋りではなく、叫び。


シンが目を見開き、慌ててルリを抱きしめたが、遅かった。




ピカッ、ドガがガーンッ




二人を中心に半径、数キロメートル。

その、全てが消し飛んだ。


森も、村も、村人も、ダハルの侵略軍3万人も、誰も彼も消し飛んだ。


あとに残るのは、双子の二人のみ。


シンは、その罪の大きさに深く、ため息をした。

ルリを見ると、ルリは相変わらず無表情だ。


シンは天を仰いだ。


「創造神様、私は、私達は、これからどうすればよいのですか?」


だが、神は答えない。


神が答えるとしたら、ルリが幸せを感じた時だけだろう。



まだ二人の旅は、始まったばかりなのだから。



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◆西暦2023年 5月

某Tランド AM11時


「ねぇ、お母さん、チューチューマウスだよ、ほら!」

「あらあら、可愛いわね。ほら、あなた」

「ははは、瑠璃は良かったな。こんな、可愛いのを買ってもらって」


仲がいい、とある家族の風景だった。

九歳の娘と、二十代の夫婦。

3人は、この遊技施設にバカンスで訪れていた。


「はい、写真とれたわよ?瑠璃とお父さんの写真」

「わぁ!ありがとう。じゃあ、今度は私がお父さんとお母さんを撮ってあげる。ほら、ならんで」


娘に言われ、照れながら並ぶ夫婦。


娘は、カメラのファインダーを覗きながら、言った。

「はい、撮るよ。はい、チーズ!」カシャ


「あれ?」

カメラのシャッターを押した瑠璃は、不思議に思った。

何故か、カメラに二人が写っていない。


「お父さん、お母さん、カメラが壊れ?っ…お父さん、お母さん?何処にいるの?」

顔を上げた瑠璃、二人が居ない事に気づく。


「お父さん、お母さん、何処?お父さーん、お母さーん、うええーん、お母さん、お父さん、居ない、居なくなっちゃ、わ~ん…」


警備員が駆けてくる。

その後、泣いている瑠璃の証言や、カメラに残る二人の写真の時刻から、たった今まで二人がその場にいた事は確認された。


だが、二人の消息は、警察も全く掴む事は出来なかったのである。



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◆アーデアル世界

ベータス王国

1000年前


「う、ここは?」

「あなた、大丈夫!?」


正樹は、真理亜の声に起き上がった。


「よく、分からないの。なんだか、大きな建物の中にいるみたい。周りに沢山の外国人がいるの。それより、瑠璃が居ないのよ!」

「瑠璃が!?」


正樹は、頭を振りながら周りを見た。


周りは、真理亜がいう通り、北欧系外国人が何故か、中世のコスプレをして立っている。

聖堂のような空間に、中世の鎧などを着た人々がおり、こちらを見つめている。


間もなく、一人のローブを羽織ったヒゲの長い人物が近づいてくる。

その人物は、二人の前まで来ると、日本語でこう話した。



「よく、お出で下さいました。勇者様、聖女様」



◆◆◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



真理亜 視点


ベータス王国は、邪神の眷属達の攻撃で、苦しんでおり、神殿で創造神イグナシスから神託を受け、別の高位次元から邪神を倒せる力のある人間を呼び寄せる、勇者召喚を行ったらしい。


この世界には、魔法があり、頭の中で思考した事を、ある程度、物理的現象として具現化出来るようだ。

ただ、人間の中で魔法を物理的現象まで動かせる人間は少なく、私や正樹のように広範囲に魔法を使える人間は皆無だった。


私は聖女の資質から、間もなく創造神イグナシスと、直接会話出来るようになり、事の次第を創造神から聞いて、正樹と話した。


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この世界は、邪神の力により破滅の危機にあり、この世界の人間達では邪神は倒せない。


その為、人間達に邪神を倒せる力を持つ、高位次元から人間を喚べる魔法陣を伝授した。


それにより、私や正樹が呼ばれたのだ。


そして、邪神が倒されれば元の世界、元の時間に、元の姿で戻れる魔法陣が作動出来る様になるらしい。

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などが分かったが、正樹も私も正直、憤りを隠せず、何度か創造神に抗議した。


完全な同意のない誘拐、大事な一人娘の置き去り、許せる事ではなかった。


しかし創造神は、ただひたすら謝り、他に方法がなく、助けて欲しいとなんども懇願され、また、疲弊する王国の惨状はいかんともしがたく、私と正樹は同意するしかなかった。


こうして私達は、邪神討伐の為、3日後に出発する事となった。



◆◇◆



「聖女様、本日も病院と孤児院に寄るんですか?」


「そうね。また、地方の町から沢山の人が、邪神の瘴気に犯されて担ぎ込まれているでしょう?孤児院に来た新しく入った子達も、瘴気に犯されているって聞いたわ」


侍女のミーアが聞いてくる。

彼女は、この世界に来てからずっと私の身の回りの世話をしてくれている専任の侍女だ。


おかげで最近は、心から話せる相手になった。


私の聖女の力は、浄化と癒し。


邪神の瘴気は、黒い霧状で空中に浮遊する。

触れただけで皮膚は爛れ、そこから黒くなると皮膚が腐りだす。

やがて全身に回れば、命を落とす代物だ。


これを治す手段は、私の聖女の浄化しか効かない。

なので出発前に出来るだけ、病気の人々を治しておきたい。




ガキンッ、カン「でや、は!」、「マサキ、もっとだ。踏み込みが足らん」


窓の外から、正樹と騎士団長ライゲルさんの、剣の練習の音が聞こえる。


ここにきて、1ヶ月。

正樹は、毎日の日課として、剣の稽古に明け暮れている。

最初は、へっぴり腰で剣を持つのがやっとだったのに、最近は、随分様になった。

ただのサラリーマンが、突然、剣を持たされたのだ。その努力は、いかばかりだろうか。


トントンッ


「入るぞ、聖女殿」

「ああ、お待ちください。王太子殿下!」


「何を待てというのだ?もう、入っているぞ」


ミーアが止めるのも聞かず、勝手に部屋に入ってくる白い軍服姿の金髪碧眼イケメン男。


この国の王太子、ガレンだ。

何時も正樹が居ないこの時間に、私に会いにくる。

しかも、イヤラシイ目つきで私を見る嫌な奴だ。


「殿下、討伐出発3日前です。この様な忙しい時に、会いに来られても困るのですが」

「いや、これは手厳しい。美しい聖女様のお姿を拝見するのが、私目の日課でして」


「困った日課です」


私は、私の手を取ろうとした、彼の手を払った。


「マリア、今日は触れさせてくれないのか?それと、私の事はガレンと呼んで欲しいのだが」

「それは、出来ません。私と殿下は、そんな親しい間柄ではございません。前にも申しましたが、私と正樹は夫婦です。変な期待はなさらないでください」


「マサキがいても構わない。私は、君を愛しているんだ」

「馬鹿な事、私が貴方を愛する事は決してありません。私達には大事な娘がいるのです。役目が終わり次第、元の世界に帰ると創造神様と約束しております」


「……君はきっと私を愛す様になる。きっとね」


私がキッパリと突っぱねると、彼は、意味ありげにこう言って、出ていった。

私は、どっと疲れて椅子に座り込んだ。


「ミーア、今の王太子の発言の意味は何?」

「分かりません。どちらにしても、相手になさらない事です」


「当然ね」


ふぅ、今は討伐の事だけ考えよう。

彼の考えを、知る事は出来ないのだから。



◆◇◆



真理亜 視点


3日後、私達は出発した。


そして様々な困難を乗り越え、ついに邪神の討伐に成功したのである。

月日は3年あまり、かかっていた。


その後、私達は帰還魔方陣がある王都に、3日の距離に迫っていた。


「?!」

「どうした?」


私達が馬車に乗っていると、創造神様から私に連絡が来た。


「召喚魔方陣が作動したって!?」

「どういう事だ?討伐の報は早馬で王都には、連絡済みの筈だ」


私と正樹は、顔を見合わせた。

いまさら、また、誰を呼ぼうというのか。

嫌な予感がする。


「正樹!急ごう。嫌な予感がするわ」

「俺もだ!」


間もなく私達は、馬車を急がせ、予定の1日早く王城に到着した。



◆◇◆



「これは、これは、勇者様。聖女様。お早い到着で、邪神討伐、おめでとう御座います」


宰相のヘルが、王城の入り口で待っていた。


「役目を果たした。直ぐに魔法陣を使って私達を返して下さい」

「おお、そうですな。しかし、少しお待ち下さい。いま、第2王子の婚儀が終わり、契りを結んでいるところですので」


片眼鏡を上げながら、話しをする宰相。


「婚儀?契り?」


私達は、顔を見合わせた。


「おお、そうですな。親族であるお二方は、立ち会う義務がありますな。どうぞ、此方に」

「「親族???」」


宰相の言った事は、全く分からない。

一体、何の話しなのか?


私達は、王の謁見の間に通され、その中央で待つことになったが、嫌な悪寒が止まらない。

周りは、武装した兵士がいる。

随分と物々しい。


でも、親族って?


私達が、首を捻っているとベータス王と王太子のガレンが現れ、玉座に座った。


「これより、勇者マサキ殿、並びに聖女マリア殿に邪神討伐の褒美を授ける」


宰相が書面を取り出し、読み出した。

私達に褒美なんて、いらないのに。


「勇者マサキ殿、褒美として隣国ライレの第2王女との婚姻を命ず」


は?!何を言った?


「続いて聖女マリア殿、褒美として我が国の王太子との婚姻を命ず」

「馬鹿な、そんなものは、褒美ではない!我々は元の世界に帰る。そんな褒美はいらない!」


正樹が叫んだ。

当たり前だ、私は正樹を愛している。

ガレンなんか、冗談しゃない!


バターンッ、突然、右側の扉が開いて一人の人影?

え?黒い髪の子供?娘?日本人なの?

半裸の布だけを巻いた、まだ幼げな娘が、裸足でペタペタとふらふらしながら歩いてくる?

私達が目を見開き驚いていると、その日本人と思われる娘は、顔を上げた。


「「瑠璃??!」」


ああ、少し成長しているが、瑠璃だ。

間違いない。


でも、なんで半裸で目が虚ろ……まさか!


「お前達!瑠璃に何をした?!」


正樹が震えている。

魔力が高まり、今にも爆発しそうだ。

魔力暴走?!いけない!


私は、瑠璃に駆け寄るべく走ったが、宰相に遮られた。


「退いて下さい。うちの瑠璃なんです!」

「いけません。この娘は、もう第2王子の妃です」


「はぁ、異世界の女だからって無理やり抱いたけど、まだガキでつまんねぇ。次はもっと胸が大きい女がいいな」


後ろの扉から、同じく半裸な十八歳の第2王子が現れた。


無理やり抱いた?

私達の大事な、大事な、あの子を?

まだ十二歳のあの子を!?


「お父さん?、お母さん?」

「「?!瑠璃!」」


宰相の後ろで、私達に気づく瑠璃。


「勇者は、王の命令に逆らった。反逆者だ。殺せ!」


王太子が叫んだ。

そんな、正樹!

私が振り返った時、正樹に斬りつける兵士が写る。


「お父さん、危ない!」ザンッ


一瞬だった。


正樹と兵士の間に、瑠璃が飛び込んでいた。

血が飛び散り、剣が瑠璃の背中に生えた。



「瑠璃ーっ、い、いやーっ!!!」



「うがあああああ!!!!!」





勇者が魔力爆発を起こし、その日、ベータス王国は消滅した。





そして、1000年が過ぎた。

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滅びの少女 無限飛行 @mugenhikou

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