帝国陸軍中将・兒島英治は、生涯大切にすると決めた妻・芙蓉子を喪った後に、太正十一年に暗殺される。
しかし、確かに命を落としたはずなのに――気づけば、亜人・獣人が社会を形成する異世界の大地に立っていた。
この世界のどこかに、先に黄泉へ旅立った妻も流れ着いているかもしれない。右も左も分からない異世界で、一眼人の女性・ロタに助けられた英治は、ロタが自分を呼ぶときの名前である「エッジ」として生き、亡き妻を捜しながら、ロタたちが直面しているさまざまな問題に向き合い、新たな戦いの中へ身を投じていく。
英治/エッジがとにかく格好良く、帝国軍人だった経験を活かして戦いに挑む姿からは、かつての人生で培ってきた貫禄や、亡き妻・芙蓉子と生きた日々で成熟した誠実な人柄が、硬質な文章で余すことなく伝えられています。
そんなエッジに徐々に惹かれていくロタの格好良さも、見どころの一つ。司祭長として多くの者たちをまとめたり、大きな決断を下すことを強いられる彼女の凛とした佇まいは、芙蓉子とは異なる存在のはずなのにどこか近しいものがあり、エッジとのやりとりに惹きつけられていきました。
新しい世界で出会う人たちも魅力的で、複雑な人間関係が生み出すドラマに、夢中になること間違いなし。
骨太で繊細、嫋やかで力強い物語の世界へ、ぜひ旅立ってみてはいかがでしょうか。
タイトルに愛おしさを感じるとき、きっと優しい読後感に包まれます。
主人公、兒島栄治は、帝国陸軍中将であり、厳しい世界において、芙蓉子を妻にした。
芙蓉子は、美しい花の名によく似ている。
花の凛とした姿が、芙蓉子を表しているかのようだ。
しかし、先に逝かれてしまった。
栄治は、己の生涯を愛する妻に捧げることが、愛だと思い続ける。
後悔が甚だしい。
その折、栄治は、暗殺により命を落とす。
気が付けば、日本でもない、あの世にしては不思議な、異世界へ来ていた。
そして、自らは二十代に若返り、名を聞こえるままに、エッジとなる。
また、顔貌から、ハンブルとも呼ばれる。
この世界には、一つ目、三つ目の種族がおり、希少な二つ目はハンブルと呼ばれるからだ。
その他、様々な種族が登場して来る。
さて、サンドラを祭るロタと言う司祭長が登場する。
また、ディランドと言う皇帝もいる。
この均衡は中々難しいようだ。
この後、エッジは、同じく妻も異世界にいるのではないかと、捜すことを決意する。
陰謀が渦巻く中、栄治だった頃の帝国軍人ならではの、王手まで辿る道を知るかのような見事な戦い振りを発揮する。
だが、それだけではなく、様々な者と関わり、交流し、かけがえのないものを得、また、失うものもあった。
栄治として、妻を捜せるのだろうか。
エッジとして、新たな道を行くのだろうか。
私は、本作で、栄治と芙蓉子の浪漫に惚れました。
恋を知り、愛へ熟した後、深いやるせなさに打ちひしがれないようにしたいものだ。
これから、この世界へダイブするとき、涙を拭う物をお忘れなく。
異世界転生の物語は多くあれど、主人公が元日本帝國軍将校という作品は少ないのではないでしょうか。
現代とは違う、百年前に生きた男性。ゲームもラノベもない時代の人です。異世界に関する予備知識はありませんが、戦争に関わっていた生の経験があります。
本作は、主人公・英治/エッジが帝國軍人だったからこそ、見知らぬ異世界の軍事的戦略に係るシーンに説得力が生まれ、ストーリーに深みが増していたように思います。
人種間の力関係、特殊な力を持つ宝物を利用した戦略、政治的駆け引きなど、大変読み応えがありました。
一眼人のロタが、非常に魅力的でした。
凛として心根が靭く、誠実な志を持つ人。現代的な強いヒロイン像ですが、エッジには新鮮なタイプの女性として映ったはずで、その感覚もリアルでした。
亡き妻・芙蓉子との約束を守りきれなかったという後悔が、英治を動かし続けます。
一方で、エッジとなってから結んだ人間関係も、徐々に大切なものとなっていきます。
ハードなストーリーラインの傍らで、心情の移り変わりの丁寧な描写もお見事でした。
ラストシーン、タイトルが効きました。
エッジは今度こそ、愛する妻に生涯を捧げ通せるはずです。
感動的な読後感。素晴らしい物語でした!