あとがき

お初にお目にかかります、久々原仁助と申します。


私の拙い書き方では、すべての想いや、感情をお伝えすることができず、読んで頂いた皆様には心苦しいばかりではございますが、海のシンバルを最後まで読んで頂きました皆様に、心より感謝申し上げます。


 この作品を書いたとき、私はこの作品を誰にも見せるつもりはありませんでした。磯辺とRは、まるでへその緒のような管で繋がった2つの部屋を決して出ようとはしませんでした。2人が向かい合うとき、そこには必ず文字があり、その隙間から相手を覗くこともせず、お互いが送りあった言葉だけを信じる努力をしていました。


 彼らが閉じた部屋の扉をノックする、そんなこと本当にしてもいいのだろうか。ずっと迷っていました。


 多くを考え、それでも私は、この小説を公開することに決めました。


 どうしてかは、よく分かりません。


 この文庫本サイズの3・11には、言葉足らずの感情と、少しの現実が置いてあります。


 私たちはいつだって海を挟んで、対岸の火事を見続ける。

 11年経っても消えない炎を。


 どれだけ、どれだけ願っても、海に連れていかれた命は戻ってこないから。


 せめて、あの火事を見続けることをやめない。

 たとえ火傷を負おうとも、その火傷がほしかった。


 私のような未熟な人間が多くを語ることはできません。


 ですがどうか震災や、そこで失った一万五千人という命を忘れないでほしい。それが、ここまで読んで頂いた皆様へお送りいたします、私からのささやかな願いでございます。


 どうか、よろしくお願い申し上げます。


 ここまで読んで頂きました皆様の言葉、一つ一つが尊重されることを心の底から願っております。


 次回作は「一昨日のアンドロメダ」です。


 それでは命にたどりつくその日まで。


 どうか、お元気で。

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海のシンバル 久々原仁介 @nekutai

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