第11話 魔法のない世界(まほうのないせかい)

「楽しいなあ」


 シューは帰り道、ずっとご機嫌だった。

 そりゃそうだろうねえ。異世界に来たばっかりで、やることなすことほめられるんだからさあ。


「魔法がないんだよね?」

「残念ながらそうね」


 美桜がくやしそうに言うんだ。『おしゃれ魔女っ子入門』のくせに。


「ないと、こんなに気楽なんだなあ」

「え」

「どうしてどうして?」


 穣が好奇心全開で身を乗り出しているじゃないか。


「だって、自分で踊って、自分でボールを投げて、それだけでいいんだろう?」

「そうだけど?」


 わかりにくい話がはじまったぞ。


「ほめてもらったことなんて、なかったんだよ。誰かと仲よくなれたりも」

「ダンスとバスケットボールで?」

「あの遊び、バスケットボールっていうのか。

 シュガアテイルでは、とにかく魔法をつかわないといけないのさ。踊るときは音曲魔法とか明かりの魔法なんかを使って目立たなければ見てもらえないし」


 そういうことか!


「ボールをかごに投げるときだって、いちいち飛行魔法とかをつかわないと点数をつけてもらえない」


 魔法を使ったらスポーツじゃなくなるんじゃないか。少なくともこっちの世界では。

 そのあたりが俺はうまく話してやれる自信がない。


「落第生はつらいのさ」

「よくわからないけれど、魔法の国ってそうなのね」


 美桜が思いがけず同情を見せているぞ。


「ところで、こちらは石の国なんだねえ。道路が石だ」


 アスファルトのことか。


「シュガアテイルは、緑が深かったねえ」


 穣が学級委員らしい落ち着いた言い方をした。


「で! なに?」


 シューが、急に驚くのでこっちも驚いた。


「あ、こっちこっち」


 自動車が角を曲がって走り抜けていったので、みんなでシューをおさえて道の端で立ち止まった。


「あれは?」

「自動車っていう、乗り物だよ。中には人が乗ってる」

「馬も鳥もいないのに、箱だけが走って来たからびっくりしたよ。あれが魔法じゃないのか」


 馬はわかるけど、鳥っていうのは、あの大きな鳥みたいなやつなんだろうな。シュガアテイルでは鳥に乗り物を引かせることもあるのか。


「魔法じゃなくて、そうだなあ、仕掛けだねえ」

「仕掛け」

「魔法があるところでは、仕掛けのある道具、作らないかもしれないけど、そうだなあ、また今度ゆっくり説話すよ」


 穣、よく説明できるな。

 それより俺、父さんと母さんにどう言い訳するのかまだ思いついてないぞ。

 どうせ美桜は何も考えてなさそうだしなあ。どうしようか。


「お兄様」


 こっそり美桜がそんなふうに話しかけてきたので、なんだか嫌な予感がした。

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七人も魔女がいる! 倉沢トモエ @kisaragi_01

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