第10話 得意なことをしたい(とくいなことをしたい)

「踊るのはいいなあ。それで仲よくなれる人がいるなんて最高だな」


 俺と穣がなんとかシューを図書室の外に連れ出して体育館の裏に落ち着いたら、あいつそんなこと言い出すんだよな。


「お兄様ったら無粋だわ。せっかく盛り上がっていたのに」

「先生が来たら面倒だろ」

「そうだよねえ。それはごめんねえ」


 シュガアテイルでビスコッティさんをごまかしたことを思い出しているんだろう。そうなんだよ同じようなことになるところだったよ。学校生徒はしょせん子供だからこういう時めんどくさいよな。


「とにかく、これから教室から荷物取って来て家に帰るからさ、ちょっとだけここで待っててよ」

「お待ちになってね」


 美桜のやつめ。何がお待ちになってね、だよ。


「どうすんだ?」


 穣がこんなことを聞いてきた。


「君の家で大丈夫か? 急に緑のアフロの友達泊めろって」

「何とかするしかないだろ。それともお前の家でならいいのか?」

「うちはもっとまずいぞ。だから訊いたのさ」


 穣の家では難しいだろう。それはわかっている。


「幸いケーキに興味があるから、って言えば父ちゃんは甘いからな」

「ケーキ屋なだけにな」


 おっさんみたいなことを言うなよ。


「俺には厳しいがな」


 ケーキの仕事がしたいと言ったら、なんだか容赦なくなった。


「見学と仕事は違うらしいぞ」


 見学者には甘いのだ。


「あ、そうか。これ、シューに言っておかなきゃいけないなあ」


 そうして体育館の裏へ戻ると、


 いない?


「お兄様」


 美桜が満面の笑みで手を振っている。どうしたんだ。そこは体育館の入り口だ。


「ごらんになって? シューさん、こちらでも大人気よ」

「何やってるんだよ!」


 そのタイミングで、中から歓声が沸いてきた。


「バスケットボール?」


 ボールを持って、緑のアフロがシュートを決めまくっている。スリーオンスリーっていうのかあれ? 三人対三人で、なかなか激しいことになってる。

 緑のアフロ、ってあたりが中途半端にスター選手っぽい雰囲気になってて、なんだなんだ、何がどうしたんだよ?


「あ、来た来た。

 ねえ、これも楽しいねえ」


 シューはのんきにそんなこと言ってる。


「どうしたんだよ桐野、知り合いか?」


 バスケットボールチームの本条が食いついて来た。


「何? 転校してこねえの? ぜってえチームに入ってほしい!」

「ああ……」

「すげえな、こんなに気持ちよくシュート取られるのくやしいけど楽しいよ」


 勝ちにこだわる本条にこんなことを言わせるとは、なにをしたんだよシュー。


「あ、ああ」


 俺はまたあいまいにごまかして今度こそ穣と二人がかりでシューを連れ出した。

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