第9話 君が踊るというから(きみがおどるというから)

 俺たちはそれから、時間内に掃除を終わらせたのだ。

 ごみ箱だって空だ。


「あれ? シューは?」


 そろそろ掃除も終わろうという頃、緑色のアフロヘアーが見えなくなった。


「え? 美桜もいない?」


 あの二人は掃除当番じゃないから、手伝えとも言わないで放っておいたんだが。


「どこ行った?」


 里中がその時気づいた。


「図書室、騒がしくないか?」


 壁ひとつ向こうの図書室。

 掃除当番のない奴とか、もう終わって帰る奴ら。

 いつもは静かに本を選んで、話をして、そのくらいなんだけどなあ。


「たしかに騒がしい」


 それどころか、何か盛り上がってる。手拍子とか聞こえるぞ?

 俺たちは図書準備室の、図書室へ通じる戸をそっと開けた。引戸なので、五センチくらい。


「しゃがんでよ」


 俺が下、里中が上からのぞいた。


 そこには。


 人だかり?


「美桜ちゃん、こんな楽しいお友達がいるのね?」


 司書の山端先生まで。

 誰かを囲んでいるみたいだ。


「すげえ」


 太田。いつも図書室にはいないだろう、あいつ。放課後はダンススクールに直行しているはずなのに。


「あれ、シューじゃない?」

「えっ」


 人だかりの真ん中で、手拍子に合わせて踊っている奴がいる。

 緑色のアフロヘアーだ。


「なんで?」

「あら、お兄様。お掃除お疲れさま」


 美桜がいつものように落ち着き払ってこっちに来たぞ。


「何していらっしゃるの? こちらに来てご覧なさいな」

「シュー、どうしたのよ?」


 シューの踊りはますます盛り上がっていく。


「どこの民族舞踊かしら。大陸っぽい雰囲気だわ」


 先生が感心している。足を素早く組み替えたり、背中をぐっとそらしてみたり。

 あっ、狭いのにバック転した!


「シューさんはね、こちらの世界の本に興味があるとおっしゃるものですから、ご案内したの」


 なんでそんなことしたんだ。


「隣の学区のお友達、って言って」


 そういうときは学校に断らなきゃいけないんだぞ。


「珍しいヘアスタイルね、って、騒がしくなったものだから、『ダンスをされてるのよ』って答えたの」


 あきれたものだが、そういえばあの太田、先月ダンスコンテストのため、って、頭が紫色だったな。


「そしたらシューさん、本当にダンスがお得意だったのよ。言ってみるものね」


 無責任な奴だなお前は。


「最高だよ!」


 太田なんて、握手してるぞ。


「今度、うちのスクール来いよ!」


 フットワーク軽いな! おいおいどうしようかこれ。


「えっ? エヘヘ!」


 シューも、まんざらでもなさそうに笑ってるし。

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