第8話 学舎にて(まなびやにて)

「取りに行かなきゃ!」

「僕も、戻らなきゃ!」


 美桜とシューが慌てている。


「……でも、召喚魔法のはずがなぜかシュガアテイルに行って、そこで大鍋の中に隠れてたらこっちに戻って。

 どうして行き来できたのか、さっぱりわかってないのだわ!」

「そうだ! わあ、どうしよう!」


 ふたりはそうしていたのだけれど。

 どうすればいいんだ?

 確かに何もわからなかった。

 さっき、俺たちが急にシュガアテイルに飛ばされた時も慌てたけれど、三人でだったからいま思えば心強かった。

 シューは、ひとりで知らない世界に来てしまった形じゃないのか。まだ知りあったばかりの俺たちじゃ、頼りないだろうなあ。


 それとは別に、何か忘れてる気がするぞ。

 そうだ、ここは図書準備室。


「俺たちは掃除当番だ!」


 時計を見て、我に返った。


「ほらほら!」


 段ボールを運んで、元の位置に戻す。これでちょうど魔方陣を見えなくしてくれる。


「えっ、魔方陣隠しちゃうの?」


 シューが涙ぐんでいるので、なんだかかわいそうだったけれど仕方ない。


「今はこうするしかないんだ」


 ほかの生徒にも、先生にも見つからないようにしないと……


「一旦、どこかで落ち着いて考えようよ」


 里中が静かに言った。


「落ち着いて……」


 シューが、そう繰り返す。


「そうだ」


 落ち着いたらしい。


「そういえばここ、どこ?」


 そこからか!


「俺たちの世界の、俺たちが通ってる学校の、図書準備室だよ」

「図書室?」


 ひどく驚いているんだが、どうした?


学舎まなびやにある図書室? 君らの〈天命の書物〉を探す場所かい?」

「いや、僕らの世界には〈天命の書物〉はない。ただ学んだり調べたりするための書物の部屋だよ」

「そうか。そうだっけ。なんだか図書室って聞いただけで緊張しちゃったよ」


〈天命の書物〉に自分のこの先を決められる世界で、それが見つからなかったというのは、結構心に来るのかもしれないな。


「そう。学ぶことのできる場所なの。ここで私は召喚魔法を手に入れたのですからね」


 また美桜がややこしくする。


「そうか。〈天命の書物〉はなくても、魔法書はあったんだっけ」


『おしゃれ魔女っ子入門』だろ。魔法書ってほどのものかよ。

 でも一応、シュガアテイルに行ったしなあ。あの本のこともよくわからない。


「ところで、」


 里中が時計を指して、


「そろそろ鍵を職員室に返して、帰らなきゃ」

「お兄様。シューさんは、私たちのお家へお招きしてはどう?」

「お招きするような立派な家じゃないだろうよ。でも、家で落ちついて話したいとこだよな」


 シュガアテイルでのこと。今のこと。


「お家に? ありがとう」

「シュガアテイルではお世話になりましたもの。ここで、ひとりぼっちにはさせませんわよ」

「じゃあ、さっさと片付けよう」


 床掃除と、机を拭かなきゃいけないんだ。

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