第45話3.45 やはりというか原因は俺でした
ともかく後に伸ばしてもいいことはないと、翌日昼過ぎ、俺はサクラ、ラスティ先生、サーヤを連れて――勝手についてくるともいう――『女神ウェヌスの店』を訪れていた。
「ようこそ、いらっしゃいました。アル様」
「こんにちは、カンパスさん。今日は大人数ですみません」
「いえいえ、皆様、歓迎いたします」
皆へ向け、にこやかな笑顔を向けるカンパスさん。俺は冷や汗をかいていた。にこやかな笑顔の下にただならぬ気配を感じてしまって……。
「初めまして。ラスティです。アル君の従者です」
「昨日もお会いしましたね。シェール様の従者をしております。サーヤです」
「カンパスです。黒紅龍商会の担当にして、アル様の素晴らしさに触れて愛人志願した女です」
「お聞きしました。カンパスさん。そうですね。まずはその話からしましょうか? アル兄様、少し席を外してもらえますか?」
「それでしたら、隣の部屋でお待ちください」
ふふふ、と微笑を浮かべて話し合う女性陣。俺はカンパスさんが呼んだメイドに連れられて部屋を出た。
連れてこられた部屋は小さめの応接室だった。茶と茶菓子をおいたメイドさんが部屋を出てから、俺は一人ため息をつく。
「いったいどんな話になることやら。しかし、最近思うんだが、この世界の女性は積極的だな……」
ラスティ先生は俺の気持ちも聞かずに、ずっとついてくると言ってる。
成長したら離れるだろうと思っていたサーヤも、子供のころと変わらずベタベタしてくる。
サクラも何だかんだ言いながら俺のことを気にしている。皆の気持ちは分かり切っていた。そして、そこにカンパスさんの愛人発言だ。いったいどんな話になるのか想像もできない。
俺は、さらに深いため息をつく。そこではたと気づいた。
「まさか、『心願成就』が何かしている⁉」
教えてくれ! と俺は願う。すると思いっきり頭を抱えたくなる言葉が脳内に響いた。
『イエス、マスター。『心願成就』が、質問にお答えします。『心願成就』は、マスターのいろんなタイプの女の子達と仲良くなりたい。という願いを現在叶えている最中です。まだまだ道半ば……にも到達しておりませんので報告は控えさせていただいております』
「マジか……俺は、いつそんなこと願った」
再び、教えてくれ! と願う。
『イエス、マスター。『心願成就』が、質問にお答えします。マスターが、4歳のころ種族に関する本を読みながら、「ケモミミに角に羽根、異世界らしいな。これほど多種多様な種族みんなと仲良くなれるだろうか?」と願われました』
くっ! それって願いじゃなくて疑問、いや、確かに仲良くなれればうれしいなとは思ったけど、でも、男女間の仲良くじゃなくて、こう男同士の友情的なので十分なのだが。
再び響いたシステム音声に俺は思わず机に突っ伏してしまう。そこで気づいた。
「まだ終わりじゃない⁉」
『イエス、マスター。『心願成就』が、質問にお答えします。種族はまだまだございます』
「きゃ、キャンセルだ! その願い‼‼」
『ノー、マスター。『心願成就』は、心から望んだ願いでないと叶えられません』
「こんなに願ってるのにぃ⁉」
俺の心からの叫びに対する返事はなかった……。
衝撃の事実で打ちひしがれている俺のもとに、メイドさんが呼びに来た。どうやら、話が付いたようだった。
自らが原因と知ってしまった俺は申し訳ない気持ちと女性たちの間でどんな話し合いが行われたかの恐怖の気持ちの2つを胸に、皆がいる部屋に入る。中では。
「へぇ~、洗髪剤だけでなく、洗顔料に保湿クリーム、手の肌荒れクリームまで、それで皆様とてもお綺麗なのですね」
「ありがとうございます。カンパスさん。貴方も、すぐに綺麗になれますよ。アル兄様のお側にいれば」
「希望するなら豊胸もしてみる? アル君、大きいの好きだから」
「あれやったら、ラークレイン来る? 私の従者の席空いてるから」
「それ、いい」
めちゃくちゃ仲良く話をしている四人がいた。
「えっと、これってどういう状態?」
「あ、アル兄様。えっと、カンパスさんとお友達になりました」
「アル君についてとても話の合うお嬢さんだったよ。愛人にするかどうかはアル君が決めたらいい」
「紅龍爵様に話して、ラークレイン城に部屋作ったってぇな」
「し、城に住むの? いいの? カンパスさん。北の果てですよ。紅龍爵領」
「いいわよ。美のためなら家族説得して付いていく。洗髪剤も保湿クリームも手荒れクリームも全部作るよ! それに――すぐ帰れるようになるんでしょ?」
「う、うん」
確かに、すぐに帰れるようになる。今でも、カンパスさん一人ぐらいなら俺かサクラの転移理術で帰れるのだから。だからと言って、決断早すぎない? いくら美容製品が好きだからって、うちの爺様や父さん母さんがなんて言うか……俺の決断が出来ないでいた。
黒の商人 茄子大根 @hamagongon
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