最終話 キスよりも簡単だったぜ

「じゃあ、早速で悪いんだけど聞くね。戦士と会計、お前ら、付き合ってる?」

「……そういう勇者こそ賢者と付き合っとるやろ!」

「ななななな、何を根拠に!」

「実は時が戻る直前、オレの禁術も発動したんや。オレの禁術、聞きたいか?」

「……」

 勇者は渋々頷いた。

「オレは、お前を守るためだけに禁術を習得したんや」

「なっ」

 こんなタイミングで泣ければ感動で泣いちゃうようなセリフだった。

「お前に死の脅威が迫った瞬間、オレとお前の位置を入れ替える。それがオレの習得した禁術や!」

「位置を入れ替える?」

「ああ。必然オレは死ぬ。それが誓約の代わりになんねん。んで、オレは時間が戻る直前、瞬間移動した。お前だって位置が入れ替わった感覚あったんちゃうか?」

 勇者は無言で頷いた。

「すると、ラブホっぽい見た目の部屋で目の前には賢者がおった。その後の記憶はもうあらへん」

「……」

「オレがなんで死んだかはわからんけど、お前と賢者はラブホにおった、それだけは事実なんや!」

「うぐぅ!」

 その弾丸に論破された勇者は胸を押さえた。

 戦士の先制攻撃だべ!

 しかしそこは世界を救った勇者。すぐに立ち直り、話の問題点に気が付いた。

「つまり戦士よ。時間が戻る直前は、俺とお前の位置が入れ替わったってことだよなあ?」

「……それがどないしたんや」

「俺の最後の記憶では、目の前に半裸の会計がいた。つまり、お前は今自分が会計とできていると自白したようなものなんだよ!」

 その異議が通ったので戦士は頭を押さえた。

 不毛な痛み分けだった。

「……」

「……」

 ここで、勇者の頭に疑問がよぎった。

 結局俺たちの死因はなんだったんだ?

「俺の最後の記憶は、浮遊感と全身の激痛なんだが……」

「……」

 会計が気まずそうに目を逸らした。

 記憶を掘り起こすと、会計は少し下にいた気がする。つまり、勇者は天井付近にいたということだ。

 戦士は浮遊魔法の類が使えない。浮遊ではないなら、どうやって天井付近に?

 それで勇者は察した。俺、天井に縛られて吊るされてたんだ。

 ラブホで縛られるシチュエーションってなんだ? と思ったけど、すぐに思い浮かんだ。

「戦士……お前、もしかして……」

 緊縛。

「こんの……ドMがぁあああああああ!」

「あひい」

「喜ぶのやめて」

「あ、はい」

 事件の詳細はこうだ。

 戦士は会計とSMプレイに興じていた。

 しかしそのタイミングで戦士の禁術が発動し、勇者と戦士の位置が入れ替わる。

 戦士の腕や足は勇者の二倍くらい太い。

 そのため、拘束が解け勇者は落下したのだ。

「落下しただけじゃ死なないはずなんだが……」

「すまん、オレが緊張感を味わうために、下に煮えたぎるお湯が入った釜を用意していたからそこに落ちたんやと思う」

「いや、そこに熱湯が用意されている意味は本当にわからないんだけどね?」

 勇者は煮立った釜で全身火傷し、その影響でショック死したというわけだ。

「謎がひとつ解けたね」

 賢者が嬉しそうに呟いたが、まだ大きな謎が残っていた。


 どうして勇者と戦士の位置が入れ替わったのか。


 戦士の禁術は、勇者に死の脅威が迫った瞬間に位置を入れ替えるものであるというものだ。

 つまり、勇者の身に危険が迫ったということ。

「……」

 嫌な予感がした勇者は、恐る恐る賢者に質問をした。

「一応聞いておきたいんだけど、賢者の習得した禁術を聞いておいていいか?」

「ん? あたし? あたしのは結構愚直だよ。自分に命の危険が迫った時に自爆する術」

「これまた思い切った術にしたなぁ……」

「わたしには真似できないです……」

「……」

 賢者の禁術を聞いた勇者の頭がフルスロットルで回転する。

 つまり、勇者と賢者それぞれに死の危険が迫ったということ。

可能性は二通りだ。

 外的な脅威が迫り、二人同時に死の危険にさらされたか。

 もしくは、賢者に死の危険が迫り、賢者の禁術で自爆スイッチが押されたことにより、勇者に死の危険が迫ったという可能性。

 考える。

 考える。

 考える。

 魔王。最後の一撃。公認会計士。有効。ドM。禁術。セカオワ。

 ツンデレ。

 キス。

 勇者は大きく息を吐いて、顔をあげた。


「キスよりも簡単だったぜ」


「なにかわかったの?」

「ああ、賢者。原因はお前だったんだ」

「え、あ、あたし?」

「ああ」

 勇者は説明した。

「お前に二つ、いいことを教えてやる。まず一つ目。キスするときはな、相手の唇の位置を確認してから目を閉じるんだ」

「えっ、な、なにを言っているの?」

「そして二つ目。キスをしている最中はな」

 賢者はごくりと生唾を飲み込んだ。

「鼻で息をするんだ」

 賢者の顔が驚愕の色に染まった。

「長いキスの間ずっと息を止めていた賢者は、体が押さえられて、呼吸ができないということで自分でも気が付かないうちに禁術の自爆スイッチが作動した」

「……」

「その自爆スイッチのせいで勇者である俺に命の危険が迫り、戦士の禁術が発動した。位置が入れ替わったんだ」

 そして、賢者と戦士は死んだ。

「そのあと、熱湯の上で縛られていた俺は、ロープがゆるゆるになって落下、全身やけどでショック死したというわけだ」

 その結果、一分間に三人死亡し、会計の禁術で時間が戻った。

 つまり、本当の原因は、賢者にキスの仕方を聞かれたとき、適当にネタに走った勇者にあったのだった。

 冗談は程々に。勇者は深く反省をした。


これが事件の真相だった。

うそみたいだけど、これが答えだった。

しょうもないオチだったが、新たな

てきの襲来ではなくて一行は安堵した。

世の中に平和が戻ったことで、色々な

界隈も元気を取り戻したようだ。


にっぽんにはまだ帰れない。

平凡な学生だった勇者はまだ賢者と

和気あいあい仲良く暮らしていた

が、英雄として世界中から人が

訪問することも多く、暇を感じら

れることも少なかった。


まあ。

しがらみのないそんな日常が、

たのしかったりするもんだ。勇者はそう…


F

I

N

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ハッピーエンドロール 姫路 りしゅう @uselesstimegs

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