アインゼス竜皇国軍の出陣
既に御前会議は終了し、各閣僚はそれぞれの仕事に戻る。その仕事の勢いはすさまじいもので、軍の編成が一気に進むことになった。当初、軍官僚達は一ヶ月の準備を三日で行えという理不尽極まる要求に憤慨したが、その理由を聞いたときに軍官僚達の心が変わった。
ヴェルティアへの彼の地での扱いを聞き怒りを発しない者などいない。しかもさきほどの御前会議でもたらされた報告はアインゼス竜皇国の誇りを踏みにじるものであったのは間違いなかった。
そこからはもうすごかった。当初一ヶ月かかるという軍事計画であったが、そこから一気に話がすすむ。
それが可能であったのは、一種の妥協であったのかもしれない。アインゼス竜皇国では一人あたり一月分の食料や必要物資をそろえることを基準としているのだが、今回の遠征では三週間に緩和され、不足した場合には逐次送るという方式が採用されたのである。しかし、堅実なリザーノルフ軍務卿の思想では今回限りであることが明言されたのは、軍事行動を慎重に行うアインゼス竜皇国の基本姿勢は変わっていないと言える。
シルヴィス達が異世界に渡り、数時間後にディアーネより報告が入った。
『ヴェルティア様は魔族の方々と友誼を結びました。当代の魔王の名前はリゼルフィアというヴェルティア様と同年代の少女です。この世界の魔族の方々は元々天界にいた神とのことです。不老なので容姿は二十代のものですけど、既に二~三千年生きているとのことです』
ディアーネの報告を受けたのはシャリアスとアルティミアである。
「まぁ、ヴェルティアだからな」
「そうですね」
シャリアスとアルティミアは苦笑混じりに言う。ヴェルティアの天真爛漫な性格はなんだかんだ言って他人と仲良くなりやすいのである。問題はヴェルティアの行動力にきちんと対応できる実力の持ち主の場合には騒ぎが大きくなってしまうのである。
『ヴェルティア様はリフィさんと
次いで入った報告に二人は顔を見合わせた。
「いかん、流れに入ったな」
「ええ、拉致された本人が楽しそうなのは変な感じするけど魔族の方々も楽しそうに考えているのなら迷惑をかけないみたいなので良しとしましょう」
「そうだな。シルヴィス君と結婚したから忘れてたけどヴェルティアは本来こんな感じだったな」
「ええ、いかにシルヴィスさんがヴェルティアを止めてくれてたのかがわかりますね」
「そうだな。娘夫婦のやりとりはこちらも楽しく見てたし、みんな楽しく見てたんだよな。それを奪ったシュレーゼントと神はやはり許せんよ」
「ええ、これまでも私達のような家族の幸せを崩してきたのでしょうから、報いをくれてやらないといけないわ」
シャリアスとアルティミアはそういって怒りを滲ませた。
二人の価値観では、シュレーゼント王国の王族や貴族は自分達が責任を持ってやるべき義務を異世界のものに丸投げしている段階で統治者の義務を果たしていない。二人は皇族として様々な特権がある。だが、それは多大な義務とのトレードオフの結果すぎない。
「さて、あとは待つのみだ」
シャリアスの言葉にアルティミアは静かに頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『キラト達がシュレーゼントと教団の連合軍を連れてきました。現時点で何も問題はありません。あとはあのクズ共が全員揃うのを待つのみです。おそらくあと五~六時間で揃うと思われます』
シルヴィスの報告に重鎮達は頷き合う。
「さすがはシルヴィス様だ」
「ああ、相手の心理を完全に読んでいないとこんなことはできんぞ」
「やつらの置かれた状況、心理を考慮した上でこの結果を導き出したのかもしれないな」
「あり得るな」
重鎮達の称賛は決してお世辞ではない。シルヴィスは相手の心理、求めるもの、感情を利用して望む結果をだすということはヴェルティア達からの話から察している。何も考えない力業だけのものであればさすがに一つの世界の神々を相手取って勝利することなどできないだろう。
「諸君、聞いた通りだ。我が軍の出撃は数時間後に迫っている。各員にその旨を伝達せよ。彼の世界にすぐに宣戦布告を行い。シュレーゼントと教団を殲滅させる」
「はっ!!」
シャリアスの命令に重鎮達は立ち上がると一礼して出て行った。
「当然だが
「ええ、そちらは私が対応します。我が軍の者達に被害など一切加えさせませんわ」
「ああ、もちろんだ。そうすることで奴らにさらなる絶望を与えることができる」
シャリアスの嗤いにアルティミアもまた嗤う。
シルヴィスの報告により、アインゼス竜皇国軍は一斉に起動した門を通って異世界に出陣していった。
チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった やとぎ @yatogi
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