竜の逆鱗に触れた愚か者達

『今日、出陣となります。ヴェルティア様は第一軍の将として先行することになりました』


 御前会議の場でディアーネの報告にアインゼス竜皇国の重鎮達から発せられる空気にビシリとヒビが入る。

 先陣をきるのは武人の誉れとは言え、助っ人にやらせるようなものではない。


「陛下、シュレーゼント王国の者共はどこまでわれらアインゼス竜皇国を虚仮にすれば気が済むというのか」


 リザーノルフ軍務卿の怒りを押し殺した声に重鎮達はもっともだというように頷いた。


「あの者共に品性など期待してはならぬということだな。分かっていたつもりではあったが、あの者共の卑劣さは余の想定を上回っていたな」


 シャリアスの言葉にも例えようもない不快感が含まれている。


(おい……想像以上に卑劣だな。助っ人に第一陣を任せるものなのか?)

(ヴェルティアさんを使い潰してやろうという意思を感じるな)

(控えめに言ってクズだな)

(ああ、救いようのないクズ共だ)


 キラトとシュレンがささやきあう。正式に親征に参戦することが決定したことで御前会議に参加することをシャリアスが許可したのである。キラトもシュレンも余計な口出す事はせずに会議の流れを見守るというスタイルである。


『ヴェルティア様の演説が終わりましたのでこれより出陣します』


 しばらくしてディアーネから報告が入る。


「いよいよか……あちらの世界の魔族がどれほどの強さかわからんな」

「皇女殿下ならば問題ないと思うが」

「おのれ……ここまで歯がゆい思いをせねばならんとは」


 重鎮達は苦虫をかみつぶしたかのような表情で会話を交わしている。それだけヴェルティアを心配しているとも言える。

 

 そして、次のディアーネからの報告で御前会議の出席者の忍耐心は一瞬で蒸発する。


『我々第一軍が魔族の領域に入ったところで国門が閉じられ、第一軍のみが魔族の領域に出征させるのがシュレーゼント王国と教皇の計画であったようです』


 ディアーネの報告に一瞬御前会議の空気が凍った。御前会議の出席者達は頭脳明晰、経歴も豊かな者達であるというのに、あまりにも予想外の出来事に思考が停止してしまったのである。


「ふざけるなぁぁぁぁ!!」

「おのれぇぇぇえ!!どこまでも愚弄しおって!!」

「どこまでもつけあがった者共だ!!」


 重鎮達の怒りはすさまじいものがあった。ヴェルティアを敬愛しているというのもあるが、アインゼス竜皇国を虚仮にしたことが彼らの矜持をこの上なく傷つけたのだ。シュレーゼント王国への憎悪はもはや何も知らぬ赤子レベルにまで達しようとしていた。


「落ち着け!!」


 そこに竜帝シャリアスが重鎮達を窘めた。父親でもあるシャリアスが静かにせよと言われれば重鎮達も黙るしかない。


「諸君、あの者らがどうしようもないクズ共である事は承知していたことであろう。あの者共がこれだけ我らを愚弄したのだ。分からせてやろうではないか。準備を完璧に整え、整え次第出征する。軍務卿、あとどれほどかかる?」


 シャリアスの言葉にリザーノルフ軍務卿が恭しく答える。


「あと一ヶ月で糧食が揃います。軍の編成、指揮官の選定など全ては終了しておりますのあと一ヶ月お待ちください」

「ふむ、将兵を飢えさせるわけにはいかぬな。できるだけ急いでくれ」

「御意」


 リザーノルフ軍務卿が一礼したところで今までの議論を全て吹き飛ばす情報が御前会議の場に届けられた。


『シュレーゼント王国のオルガス王はヴェルティア様と魔王を斃させ、弱ったところを殺すか捉えて性処理・・・用の存在に堕とそうと画策しております。王太子、教皇はそれに同意しました』


 このとんでもない報告に御前会議の場で理性など消し飛んでしまった。


 バギィ!!バギィ!!バギィ!!バギィ!!バギィ!!


 そんな中シルヴィスがシャリアスがアルティミアがレティシアが……御前会議の出席者の全員が力を込めてた結果、御前会議の机が砕け散った。


「ヴェルティアを性処理だと……皆殺しにしてやる」


 シルヴィスの声は荒々しくはない静かなものだ。だがそれこそシルヴィスの怒りの大きさを感じさせた。


「リザーノルフ卿……先程の言葉を取り消させてもらおう」


 シャリアスの言葉にリザーノルフは立ち上がり一礼する。


「我が娘をここまで愚弄され許すことはできぬ。竜帝としてではなく父親としてシュレーゼント王国の者共を許すことはできぬ。卿らの力を貸せ」

『御意!!』


 シャリアスの言葉に重鎮達はまたも立ち上がり一斉に言う。


「陛下、私がまず彼の世界に行き、シュレーゼント王国の軍を殲滅する戦場を選定します。その上で皇軍を案内いたします」


 シルヴィスの言葉に全員の視線が集まった。その視線には不安なものがある。もちろんシルヴィスへの能力の不安ではない。むしろ怒り心頭に達しているシルヴィスがシュレーゼントを地上から消してしまうのではないかという心配である。


「大丈夫です。みなさんの力を借りなければ皆殺しには出来ませんから」


 シルヴィスの言葉にシャリアスが返答する。


「わかった。シルヴィス卿に任せよう。それで何日必要かな?」

「3日です」


 シルヴィスの返答にシャリアスは頷いた。


「よし、それではシルヴィス卿……3日で戦場を決定し我らを案内せよ」

「はい」



【あとがき】

 舞台が『最強皇女を異世界に召喚したことでとんでもないことになった世界の話』の方に移動するためにしばらくこちらは更新されません。

 あの連中がどのような目に遭うか興味のあるかたは『最強皇女を異世界に召喚したことでとんでもないことになった世界の話』の方で読んでいただければと思います。 

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