人の道を外れた法

 生まれながらに心臓が弱く、また顔に痣があるために虐げられて育った少女の、その半生の物語。

 あまりにも不憫な展開が、真っ直ぐこちらの心をへし折りにくるハイファンタジーです。
 単純に不遇というよりはこう、それがすべて人の仕業に因るという点にこそ面白み(といっては人でなしみたいですけど、ちょうどいい言葉がない)のあるお話。
 つまり「可哀想」というよりは、「なんでこんなひどいことすんの」な物語です。なんでこんなひどいことすんの……本当……。

 クリスティーネ司教が好きです。いや好きっていうか、彼女の人物造形のヤバさに惹かれてしまう。
 本当にいろいろ壮絶な人(婉曲表現)なんですけど、でもそれが単純な悪役や「そういう人」とかではなく、あくまで人間として描かれていることの面白さ。

 とんでもないことを平然とやれちゃうわりに、しっかり慈愛や弱者への共感を備えていて(しかもそれは視点保持者の少女の目線からも保証されている!)、しかもそれが相反する二面性としてではなく、少なくとも彼女の中では何も矛盾しない形で存在しているっぽいこと。
 このゾクゾクするような生々しさというか、もうこの人の形そのものが読んでいて楽しいです。すごい。

 ちなみに、本作のみで独立した短編ではあるのですが、実は同作者の過去作とシリーズになっています。同じ人物が登場するものの、作品の味わいはまた違っているので、本作が気に入った方にはそちらもお勧めします。
 人の作り出す地獄を存分に堪能できる作品でした。