1. Pass the first collection point.

ー1.00α




 地面はじっとりと濡れ、水溜まりは灰色を映す。


 男は物音を立てぬよう、入り組んだ路地の角に隠れた。目の前をひたひたと歩く人影。それは、貧相な服に、病的なまでの真っ白な体を持った子供だ。


「不審な人物を確認した。座標を送る。これより接触を試…」


『いえ、単独状態は危険です。いまそちらへ増援が向かいます。そのまま追跡を継続してください。』


「…了解」


 男は言われたとおり、気付かれないよう音を殺して角を曲がる。


「…クソ、見失ったか」


「――ねぇ、なんでつけてくるの?」


 ただほんの一瞬のできことだ。それに返答することは不可能だった。

 その得体のしれない子供が目の前に、そしてその右手が、この首に。


「…バケモノ、が」


 抵抗することも出来ず、そのまま薄れてゆく視感。唯一認識できたのは、感情の欠落した、少女の紫の瞳だけだ。



 バシャッと、水溜まりにはねる。そこには、静かに横たわる男。少女の瞳は、喪失を宿す灰色。滴る雨にまぎれ、その目から涙を零していた。

 「それ」の運命を受け継ぐ者。少女はその一人だった。






/*第〇話 (一時的な観測精度の低下を確認。規定により観測を停止し、次のステップへ移行する)*/





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明日 明後日 明々後日 兎車ヒロト @toguruma3

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