自分を知るほどに深まっていく、迷い

 恋人との日々になんとない鬱屈を感じている鈴木果歩は、買い物の途中で突然の雨に見舞われ、近くの喫茶店へ逃げ込んだ。『純喫茶同好会』という名前のその店は、常連である香山という青年の発案で名前通りの同好会を発足したのだという。会に加わり、店へ通うようになった果歩は発案者の香山と交流する中、しだいに彼へ惹かれていくのだが……

 恋人に「果歩は俺を見てないよね」と言われたことをきっかけに、果歩さんは自分と向き合うこととなります。頬にできた大きなニキビにすら気づかない自分。恋人によく思われるよう行動しているだけの自分。常識を演じてきた自分。そして香山くんと出逢って思い出し、見出した自分。

 そんな自覚なき自分探しの果て、彼女は新しい恋へと踏み出していくのですが。そのまっすぐではない動線と、どこか模糊な風情を匂わせる結末、それが強い苦みとコク深さを併せ持つ人間味を味わわせてくれるのです。

 綺麗じゃないからこそ、一層人間らしさという香りが引き立つ一作です。


(「喫茶店へ行こう」4選/文=高橋 剛)