エピローグ

 その少女はまるで巣立ち雛のように、玄関先から飛び出したくてソワソワしていた。少女が何気に「ケイリーもお空を自由に飛べるなら、今すぐお迎えに行けるのになー」と、心の中で呟いた瞬間、扉は汐風を招き入れながら勢いよく開く。


「おー!ケイリー!久しぶりだな!元気にしてたか?!」


「あなた……」


 少女の後ろに立っていた母親は、久しぶりに会えた旦那の姿を見て感極まり、口を手で押さえながら泣きそうに成る。

 だが、そんな母親とは対照的に、少女ケイリーは冷めた顔をしながら棒立ちしていた。


「違う……貴方はパパじゃ無いわ」


「えっ!?」


 母親はその言葉を聞き、不思議そうな顔をする。

 目の前の男は確かに旦那のケイスだ。

 1年ぶりたが、見間違うはずが無い。

 だが目の前のケイスは、ケイリーの言葉に反応して意味有りげに『ニヤッ』と笑った。

 そして次の瞬間、ケイスの顔が割れ、中から爬虫類と昆虫を足したような粘液塗れの怪物が現れた。


「きゃああああああぁぁぁぁ!!」


 母親は叫びながら咄嗟にケイリーに抱きつき、何とか娘だけでも守ろうとする。そんな必死な姿の母親を尻目に、ケイリーはまたもや冷静に対応する。


「そして貴方は、モルティングマンでも無いわ。私達は家族よ。分からないと思ったの?」


 ケイリーがそう言うと、怪物の顔が再び割れ、中から薄金色の髪が現れる。

 全ての皮を脱ぎ捨てた青いワンピースの金髪少女は、手を腰に当てながら誇らしげにケイリーに伝えた。


こんにちハハロー、ケイリー!ノゾミさん、初めてノお使い成功でス!」


「ワーオッ!さすがノゾミさん。やっぱり本物の魔法少女だわっ!」


 そしてノゾミの後から頭を掻きながら父親のケイスが姿を見せた。つまらなさそうにしながらも少し顔がにやけている。


「チェッ、バレてたのかよ!驚かせようと思ってたのに……お前、本当に超能力を持ってるんじゃないのか?」


「ハーイッ!パパ!新しいお家にようこそ!!」


「おう、久しぶりだな……お前達。元気にしてたか?」


「あなたーッ!!帰って来るなり何ですかッ!たちの悪い悪戯なんかしてっ!!」


 母親アヴァは物凄い剣幕でまくし立てた。

 その迫力にケイスはすっかりタジタジに成る。その態度は、とても数々の強敵モルティングマンと闘ってきた男と同一人物とは思えない。


「い、いや……ケ、ケイリーが喜ぶかなと思ってだな……ハハッ」


「だいたい、あなたは何で一所に居なかったんですか?!それらしい人が見つかっても直ぐに行方不明に成るし……どれだけ私達が心配したと思ってるんですかッ?!」


「や、やばい!リンナより恐ろしい女を怒らせちまった。ケイリー!ノゾミ!俺は熱りが冷めるまで旅をしてくる。後は頼んだ!!」


 その言葉を聞くなり、ケイリーとノゾミはケイスに抱きつき、逃がさないよう両側から腕をガッシリ絡めた。


「駄目よ、パパ!一緒に見たいアニメを貯め込んで有るの。日本に来て、面白いアニメを沢山見つけたのよ!!きっとパパも気に入るわ」


「パパさん!!あのテーブルの上ノケーキとロウソクとクロス、ノゾミさんも食べて良いですカ?」


「リンナって誰ですかッ?!詳しく聞かせていただきます!!」


 家族4人の騒がしい声は、家の周りで鳴き叫ぶ蝉の声を掻き消すほど、辺りに大きく響いていた。

 戦士の束の間の休息を力添えするかのように、初夏の陽射しは新家に暖かく降り注ぐ。



 第一部 迎え来る者 〈完〉

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The Loot Box Monster〜Molting-man(モルティングマン)〜 押見五六三 @563

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