第36話

「シケイダが負けを認め、全てのモルティングマンが撤退したそうです」


 リンナの報告を受け、エリック達は大歓声をあげた。死傷者は多数出たが、街の完全崩壊を防ぎ、最強生物に初めて人間側が勝利したのだ。

 生き残った隊員達が抱き合ったり、タッチをしたりして互いの健闘を讃え合う。

 そんな隊員達の間を縫って、街から戻ったヒットガイとベニーがリンナの元にやって来た。

 ベニーもあれから数体のモルティングマンと戦闘したので、2人共包帯だらけである。


「無事とは言い難い姿ですが、生命活動が停止しなくて良かったです」


「ヨッヨッヨッ!散々だったヨッ!スーちゃんでさえ3体倒したのに、オイラ1体も倒せなかったヨッ!」


「シケイダは貴方よりも馬の遺伝子を欲しがるでしょうね。私も馬の方を助手にしたいぐらいです」


「ヨッ……それでシケイダは?」


「ケイスさんが、あと一歩の所まで追い詰めたみたいですが、逃げたそうです。現在、潜水艦3隻が追ってますが、追撃魚雷を撃ったところで、シケイダなら身代りを作ってまんまと逃げきるでしょう」


「でも、勝ったんだねッ!ジェミー!やったヨッ!オイラ達が勝ったんだー!!」


「喜んでいる場合じゃ有りません。これから直ぐにやるべき事が山積みです。先ず、スノーボールアースの真偽は専門家に調べて貰うとして、私達はどのAIでもモルティングマンと融合出来るのかどうかを早急に調べないといけません。万が一、シケイダが自我を残したままスーパーコンピューターと融合出来るなら人類は終わりです。それに私はブロンドの事も楽観視していません」


「ノゾミちゃん?ノゾミちゃんとは、さっき喋ったけど、可愛いし、素直で無茶苦茶いい子だったヨッ!」


「チンパンジーやアライグマなどは、小さい頃は飼い主になつき、言う事を聞きます。ですが大人に成るに連れて凶暴化し、手に負えなく成ります。私はブロンドが人間の味方に成ってくれているのは、今だけだと考えています」


 それを聞いてヒットガイが珍しく反論した。


「ノゾミ、味方だ。あれは昔ホピ族救った『尊敬すべき精霊カチーナ』だ。『ティフ』と言われる『精霊宿りし人形スピリティド・ドール』だ」


「……日本にも似たようなアニミズムが有ります。オカルトは良いですね。直ぐに都合の良い答えが導き出せますから。科学は答えを出すのに時間が掛かります。そして、どんなに努力しても、こちらが望む答えが出ず、徒労に終わる事が多いです。だから遣り甲斐が有るとも言えますが」


「オイラも精霊とは言わないが、AIがあの子の頭脳なんでしョ?だったら野生化する危険性は――」


「卵です」


「ヨッ?」


「別館の地下に有った卵はダンが産んだ物だと言ってましたね。だとしたらシケイダ以外のモルティングマンも、ある程度成長したら卵を産むという事です。ブロンドが卵を産んだ時、その子供までAI付きだとあなたは思いますか?」


「…………」


「それにブロンドは一言も『人類の味方』とは言っていません。ケイスさんやケイリーちゃんが居なく成った時、彼女は人類とモルティングマン、果たしてどちらをエイリアンと判断するでしょうか……」


 リンナの不安を余所に、街を救ったミドルエイジ勇者と自称魔法使いの2人は海原から帰って来た。

 翼の生えた自転車に乗ったケイスは、入道雲を背にしながら上空を飛んでいた。そして左手を振り、隊員達の喝采と拍手の嵐に応えながら、ゆっくりと地上に降り立つ。

 その姿はまるで神話に出て来るキマイラを倒した英雄のようだった……。

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