第2話

 気づけば、ぼくはベッドに横になっていた。

「レグルス、だいじょうぶ?」

 高い天井から視線を左に移すと、ミラがそばにいた。

「ミラ……ぼくはだいじょうぶですよ」

 ミラは胸をなでおろしたようだ。

「まが玉でいやしたの。間に合って良かったわ。休もうって言っても聞かないんだから」

 思わずぼくは苦笑した。

「すみません……。ここはどこですか?」

「神殿近くの民家よ。部屋を借りたの。もうすぐアルがもどってくるはずよ」

「アル?」

「アルビレオのことよ」

 とつぜん、ドアが開いた。久々に見るアルビレオだ。

「目が覚めたか。どうやらもう問題ないようだな」

「はい」

「久しぶりに姿を見たと思ったら、ぶったおれていたからビックリした」

「ご迷惑をおかけしました」

「いや、気にするな。話はミラから聞いた。総帥にはおれから伝えてある。総帥が直接お話ししたいことがあるそうだが、行けそうか?」

 ぼくはうなずいた。家主にお礼を言って、ぼくらは神殿へ向かった。

 ドアを二回ほどくぐって真っ直ぐ進むと祭壇があり、壇上には剣がささっている。後ろのかべにある祭壇画は雷をイメージした絵で、総帥はそれを見上げていた。

「お待たせいたしました、総帥」

 アルビレオが言うと、総帥はふり返った。白髪でシワの少ない方だけど、百二十才をこえていると聞いたことがある。

「大陸神殿と海底神殿の神官じゃな」

 ぼくとミラがそれぞれ名乗ると、総帥はうなずいた。

「体調は問題ないかの?」

「アサギリとミラの助けを借り、回復できました。もうだいじょうぶです」

「そうか。では、本題に入るが」

 総帥は剣に視線を向けながら話し始めた。

「わしからお主らに話したいこととは、今、地上におる蛇を自在に操る男に関することじゃ。かつて、ラミアと呼ばれる大蛇が地上にひそんでおった。そやつが自分のなわ張りにしようととつぜん、暴れまわるようになったのじゃ。被害をおさえようと当時の神官が神器の力を借りてそししたと言われておる」

「神器を……?」

「ラミアは死んだが、やつにはアルゴルという名の子供がおってな。地中奥深くで母親の結界に守られながら生きながらえていると言われていたのじゃ」

「子供を始末しなかったのですか?」

「もちろん探したようじゃが、見つからなかった。本当はいないんじゃないかとまでささやかれていたくらいじゃが、今回の件はおそらくアルゴルの仕業じゃ。結界が弱まり、地上に出てきたのじゃろう」

「ということは、アルゴルが言っていた敵討ちというのは母親のことですね」

 総帥はうなずいた。ぼくは気になっていたことを総帥にきいた。

「一ヶ月前、ぼくと同じ大陸の神官が何かに首元をかまれて亡くなっています。これは……」

「その神官なら知っておる。おそらく、アルゴルにやられてしまったのじゃろうもっと早く、あやつを見つけておったらのう」

 やはり、そうなのか。だとしたら、同じことがくり返されないようにぼく達が止めるしかない……!

「わしが知りうるのはここまでじゃが、わしよりもくわしく知っている者が海底神殿におる」

「えっ、でもそんな話、今まで聞いたこと……」

 ミラがつぶやくと総帥が言葉をかぶせた。

「お主の前任者は当時、神官見習いの立場で当時の様子をもくげきしておる。アルゴルのねらいをくい止めるにあたって何かヒントを得られるじゃろう。お主らで話を聞いてくるがよい」

 総帥の話を耳にして、ぼくはわずかな不安を覚えた。

「しかし、それならこれ以上長い時間、大陸神殿を留守にするわけには参りません。現在の神官は私一人。海底神殿へはミラとアルビレオが行き、私はもどりましょう」

「いや、それにはおよばぬ。わしら鳥人で神殿周辺の守りを固めよう。大陸神殿の神官として、お主も直接聞いてくるがよろしかろう」

「ですが、それではここは……?」

「空中神殿なら、もう一人の神官のアサギリがいる。だから問題はない」

 ぼくの問いにアルビレオが答えた。

「それならだいじょうぶね。行こう、レグルス」

 ぼくはうなずいた。総帥の申し出はありがたかった。

 この事態を早めに収拾するため、ぼくらは急ぎ空中神殿を出た。神殿の外階段の左わきにぼくとミラが使用した地上とつながるドアがある。木々と風をイメージした装飾がほどこされている。そして、外階段右わきには海底へとつながるドアがある。それにほどこされている装飾はサンゴや水流をイメージしたものだ。

 ぼくらが外階段を降りて右わきのドアへ向かうと、そのそばにアサギリが立っていた。

「ここは私に、大陸は総帥に任せてみなは海底へ急いでくれ」

「ありがとう!」

「よろしくお願いします」

「たのむぞ、アサギリ」

 ぼくらが声をかけるとアサギリは力強くうなずいて、ぼくらを見送ってくれた。

 ドアをくぐると、目の前に海底神殿がそびえていた。神殿とドアは透明な大きなドームの中にあり、ここはまが玉の力によって海底でも空気があり、ぬれずに歩いて神殿へ向かえる場所だ。ドームの外側には様々な海洋生物が泳いでいる。

「ミラ様! おかえりなさいませ」

 使いの者らしき人魚が出むかえてくれた。

「リノ様はいる? 陸と空の神官を連れてきているんだけど、リノ様からお聞きしたい話があるの」

「海底神殿におりますが」

「わかった。ありがとう。二人とも、こっちよ」

 ミラに案内されて海底神殿に入った。地下に続く階段を下りていくと広い部屋に出た。祭壇には、水流をイメージした祭壇画と石の台がある。いつもはこの台の上にまが玉が保管されているんだろう。

 祭壇の前の階段に一人の高齢の女性がいた。彼女はぼくらに気づくとおもむろに立ち上がった。

「ミラ、おかえり。そちらの方々は神官だね」

「はい、リノ様」

 ぼくとアルビレオが名乗るとリノはやわらかくほほえんだ。

「私はリノ。ミラの前にここの神官を務めていたんだ」

「リノ様! 昔、地上で暴れていたラミアの子供が現れたの。リノ様はラミアが生きていた当時を知っているって総帥から聞きました」

「それで、二人を連れてきたのね」

「教えて下さいませんか、当時の様子を」

 ぼくがお願いすると、リノは語り始めた。

「当時、私はまだ神官見習いだった。とつぜん現れたラミアのたくらみを防ぐために、当時の神官達は神器を使用していどんだ。剣は力を授け、鏡は相手の技を防ぎ、玉はいやしをもたらした。それらの力を合わせた時、悪を消滅させる一瞬の光になってラミアをほろぼしたの」

「一瞬の光……」

「光はラミアをつらぬくと、元の神器にもどったのよ」

「一つ、わからないことがあります」

 ぼくは疑問に感じていたことをきいた。

「ラミアは何故急に現れたのでしょう?」

「それは海の魔女のせいよ」

「魔女とは?」

「かつて、海を支配していた魔女と言われる人魚セイレーン。彼女がラミアをしょうかんしたと聞いているわ。神器をねらってのことだと思う。でも、ラミアに殺されてしまったのよ」

「それはどうして?」

「そこまでは私にもわからない。でも、ラミアの子供が生きていたのだから、まだ終わっていなかったのは確かね」

「やつをたおすには、神器の力が必要不可欠というわけか」

 アルビレオがつぶやいたとき、先程の使いの人魚が血相を変えてやってきた。

「ミラ様! 大変です!」

「そんなにあわてて、何かあったの?」

「大陸の様子をうかがいに浜辺まで上がりましたら、町の者がやってきて『大陸神殿の結界が破られて蛇を連れた男の侵入を許してしまっている』とのことです」

 ぼくはおどろいてすぐに言葉が告げなかった。

「そんな……総帥らが周囲を守って下さっているはずなのに」

「それが、どうもおかしいのです。その者によれば、鳥人が男を誘導しているようで抵抗している様子が見られなかったと」

「えっ? 何それ?」

「アルビレオ、どういうことですか!」

 ぼくはアルビレオにつめ寄った。アルビレオはかぶりをふった。

「おれにもわからない。何故そんなことになっているのか」

「落ち着いて、レグルス。もしかしたら、鳥人達もアルゴルに……」

「まさか、おれら鳥人が敗れるなんてこと」

「総帥が危ない! 急いでもどらなければ」

「ミラ、あなたも行きなさい。ここはだいじょうぶだから」

 リノの言葉にミラはうなずいた。ぼくらは足早に海底神殿を出て、訪れたときに使用した空と海をつなぐゲートのとなりにある陸と海を結ぶゲートを通った。

 大陸にもどり、神殿へ急ぐと神殿の前にたおれている鳥人に気づいた。

「だいじょうぶですか!」

 すぐさまかけ寄って声をかけると、その人は息もたえだえに答えた。

「おっきな……蛇が……浜の方に」

「わかったわ。これ以上、しゃべっちゃダメよ」

 ミラは玉のいやしの力を使った。苦しそうにしていた鳥人の息が落ち着き、傷が治った。彼をその場に横たえる。

「神殿の中は荒らされている」

 様子を見に行っていたアルビレオがもどってきて言った。

「総帥もだれもいなかった」

「アルゴルは浜へ向かったようです。総帥もいるかもしれません」

 ぼくらは浜へ向かって走った。その道中、たおれている鳥人や町民を数人見つけ、ミラが玉の力を使う。

 浜辺へ出ると、人魚が負傷した状態で陸に上げられていた。

「そんな! しっかりして!」

 人魚はかすかに目を開けた。何か言おうとしていたが、言葉にならずに気を失った。

「海面へ出たところをおそわれたんだろう」

「こんなことをするなんて……」

 ミラは再び玉の力を使用し、人魚はいやされていった。

「まだ近くにいるはずだ」

 その時、背後からかすかにシューという音が聞こえた。とっさにふり向いて鏡を構えた。不意打ちをねらってきた蛇は鏡の力ではね返された。

「ようやくもどってきたか」

 アルゴルが森のしげみから浜辺へ出てきた。黄色い目があやしく光っている。

「アルゴル! 総帥をどうした!?」

 アルビレオがさけんだ。アルゴルはフンと鼻で笑った。

「あいつは無事だ。ピンピンしている」

「それならどこに……」

「人の心配をしている場合か? そんなに知りたいなら、お前達が持つ神器とこうかんだな」

「あなたになんか、わたせるわけないわ!」

 ミラはまが玉をぎゅっとにぎって呪文を唱えた。そのとき、アルゴルの足下に紋章が出現し、そこから水が勢いよく空に向かうようにふき出した。しかし、アルゴルはその直前に素早く後退してよけた。

「だったら力ずくだ」

 アルゴルはむらさき色の息をふいた。ぼくは毒だと気づき、ミラとアルビレオの前に立って鏡をアルゴルに向ける。呪文を唱えると鏡が光り、そこからたつまきのように風がらせんを描いてふき出す。それにより、毒は消え失せる。このままアルゴルを攻めようとしたが、とつぜん森の方から技をさえぎるように電流が走った。

「今のは……」

「さて、そろそろ観念し、残りの神器をわたせ」

 ぼくは目をみはった。森のしげみから総帥が神器の剣を手にして現れたのだ。

「お前もやっと来たか」

「お主はもう少し相手を弱らせんかい」

 総帥とアルゴルの様子に、ぼくは問わずにはいられなかった。

「総帥……? どういうことですか? 何故神器を持って……」

「これは私の物だからだ」

「何を言っているんですか、総帥!? それはだれのものでもない!」

 アルビレオが声を荒げた。

「まさか、アルゴルを誘導した鳥人って」

「それはわしのことだな」

 総帥はミラの言葉の後を引き取った。

「そんな、アサギリは!?」

 アルビレオがきくと、総帥はあざ笑った。

「わしが剣を持っていこうとしたら、やつはゲートの前で必死に抵抗してきおったよ。だが、この剣の前では無意味だったな」

「貴様……!」

 アルビレオは青筋を立てて、こぶしをにぎっていた。怒りにふるえているのがわかる。

「どうしてこんなことを?」

「神器はわしら鳥人が持つべきなのだよ」

「何を言っているの?」

 ミラがつぶやくと総帥は声を高らかに笑う。

「これだから人魚は……。三つの種族の中で最も優れているのはわしらだということだ。力も知能もな。この世界はそんなわしらが納めるべきであるのに人間や人魚などと、何故共存していかねばならないのかわしには理解できん」

「あなたには失望したぞ、総帥! おれら三つの種族に優劣はない!」

「失望だと? その言葉、そっくりそのまま返そう、アルビレオ。鳥人でありながら他の種族との協調をうたいおって」

「神器を全て手に入れるためにアルゴルと手を組んだのですか?」

「元々こやつを復活させたのはわしじゃアルゴルを見つけたのはぐうぜんだったがの。弱まっていたアルゴルを守る結界をわしが解いた」

 ぼくは総帥の言葉で一つの疑惑がうかんだ。

「もしかして、あなたはラミアの件にも?」

 総帥はうなずいた。

「セイレーンは魔女とおそれられている自分こそが力を手にできると考えて、神器を手にするためにラミアをしょうかんした。だが、ラミアはセイレーンの言うことを聞く気はなかった。むしろ、わしが地上をお主のなわ張りにしてやろうと言ったら代わりにセイレーンを殺してくれたわ」

「あなたはそんな前から……」

「そうじゃ。そして、再びこうして神器がそろうときを待っていた!」

 総帥は剣をふりかざした。剣先から電流がほとばしり、ぼくらに向かってくる。とっさに後ろに飛びのいてかわした。

「さぁ、神器をわたせ!」

 総帥は剣をかかげると、その先に電気エネルギーの丸いかたまりが生まれた。それをミラに向かって投げる。

「ミラ!」

 ぼくは鏡の力を使ってミラの前に結界を張り、電気エネルギーのかたまりは結界に当たって消滅した。続けて鏡から総帥に向かってかまいたちを放つ。総帥は電流を放ってかまいたちを打ち消した。

「くそっ!」

 その際の爆発で砂けむりが舞う。視界をさえぎられて一瞬動けずにいたら、ミラのさけぶ声が聞こえた。ぼくはすぐに風で砂煙をはらう。視界がはっきりしてくると、ミラの前でアルビレオがたおれていた。

「アル!」

 ぼくとミラがアルビレオにかけ寄ると彼は左腕を負傷していた。

「だいじょうぶだ。それより、まが玉は……」

「それならここじゃ」

 総帥に視線を移すと、その手にはまが玉がにぎられていた。

「人魚を仕留められなかったが、これが手に入ればもうわしの勝ちじゃ。抵抗はやめて鏡をよこせ」

 形勢が不利となり、どうしたらいいか迷っているとアルゴルが言った。

「手元に神器が二つもそろったのなら、もう待つ必要はないな」

 アルゴルの目の色が黄色から赤へ変化した。肌は深い緑色になり、するどいキバをむきだして巨大な蛇へと姿を変えた。あまりの大きさにぼくは勝機を見いだせない。

「気が短いのう。お前がやりたいならそれでもかまわんがな」

「短い? ちがうな。ずっと長いこと待っていた。神器を消滅させるときを」

「なに?」

 アルゴルは総帥に向かって炎をふき出した。総帥は剣を使い、電流を放って応戦する。

「お主、何をする!」

 アルゴルは何も答えずに尾を総帥に向けてふり下ろす。総帥はすぐさまよけたが、尾をふり下ろした際の振動でよろめいた。そのスキをのがさず、アルゴルの毒霧が総帥をとらえた。

「うぅっ!」

 総帥は苦しみだし、その場に剣とまが玉を落としてたおれる。

「よくも……」

「オレの目的は最初から、母が死ぬ原因になった神器の破壊だ。あんたがオレを利用したんじゃなく、オレがあんたを利用したというわけだ」

 総帥は何か言おうと口を開いたが言葉にならず、首をかきむしった。

「レグルス、今だ! ねらえ!」

 アルビレオが小声で言った。ぼくは鏡をアルゴルに向け、うずを巻く暴風が勢いよく大蛇にふいた。アルゴルは気づいて炎をふき付けてくる。風と炎でおし合っている中、アルビレオとミラが総帥のそばまで走り、剣とまが玉を手にした。アルゴルは炎をふき続けたまま尾を動かす。アルビレオとミラはそれを察知し、さっと後ろへ下がった。アルゴルの尾は総帥のみを海へはらう。総帥は海へしずんでいった。

 神器の回収に成功し、ミラとアルビレオはおされ気味のぼくに加勢した。水と雷が風と合わさり、炎をおし返す。そしてそのとき、三つの神器が光った。

「共鳴している!」

 アルゴルは無理だと思ったのか、体制を低くして攻撃をさけた。神器はそれぞれ形を変えて鏡は弓に、まが玉と剣は矢になった。

「弓矢!? どうして……?」

「そうか!」

 ぼくは気づいた。

「これが一瞬の光なんです」

 アルゴルはキバをむいて、いかくしてきた。ぼくは弓矢を持ち、アルゴルにねらいを定めた。毒霧を放ってきた瞬間、ぼくは矢を放す。ひときわ輝く矢が毒霧の中をつきぬけ、アルゴルをつらぬいた。毒霧は消え、アルゴルはたおれて大きな音がひびいた。

「やったか!?」

 アルゴルは動かない。ぼくはうなずいた。

「そのようです」

「よかった……」

 弓は再び光って鏡へと変わり、ミラの手にはまが玉が、アルゴルの手には剣がもどった。大蛇はしだいに砂と化して、あと形も残らなくなった。


 ぼくらはひとまず空中神殿へ向かった。神殿の前でアサギリや他の鳥人達がたおれており、ミラが玉の力を使っていやしていく。彼らの手当てが済むと、アルビレオは剣を祭壇にさした。キラリと剣が銀色に輝く。

「レグルス、ミラ、ありがとう。あとのことはだいじょうぶだ。アサギリももうすぐ目覚めるだろうから、神器をもどしてこい」

「はい」

「また困ったら言って。手を貸すわ」

 アルビレオはうなずくとぼくに向き直った。

「大陸神殿周辺の町民も玉の力を使いはしたが、被害が大きいだろう。何かあればすぐにかけつけるぞ」

「ありがとうございます」

 ぼくとミラはアルビレオと別れ、ゲートから海底神殿へ向かった。神殿で待っていたリノに総帥やアルゴルのことを話すと彼女は目をふせた。

「全ては総帥が仕組んでいたのね。でも、計画をそし出来て本当に良かった。やはり、神器の光の力は本物ね」

「あなたのお話を聞いておいて正解でした。あの光は、ぼくらの調和を示す象徴のようなものだと思います」

「そうね。あなたやアルビレオに力を貸してもらえてとても助かったわ」

 ミラは玉を祭壇に置く。あわい緑色の優しい光を発した。

「初めにレグルスのところへ行ったのは、間違いじゃなかったわね」

「またいつでも」

 ぼくはミラやリノと別れ、陸へもどった。

 町へ様子を見に行くと、ミラがいやしてくれたおかげもあって、森でたおれていた者達はみんな無事だった。男はたおしたからだいじょうぶだと伝えると、町民達は安堵していた。その様子を確認した後、大陸神殿へ向かう。祭壇へ鏡を置くと一瞬、白く光った。荒らされていた神殿内が元にもどっていく。

 アルゴルはたおれた。もう、共に神官としてやってきた同志のような被害も出なくてすむ。大陸神殿の神官はぼく一人になってしまったけど、それでもだいじょうぶだ。

 ぼくには助け合える仲間がいる――。


                              ー了ー

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