浮気調査
岩と氷
浮気調査
7月23日。
午後5時03分、ターゲットが徒歩で自宅を出る。
ターゲットは通常使う路線とは違う西武池袋線に乗り池袋で下車、東武百貨店のジュエリーコーナーでショーケースを物色しながら店員と談笑、三十分ほどで何も買わずに店を出る。その足でコスメコーナーに寄り小瓶を一つ買う。
午後6時32分、ターゲットは池袋駅西口を出て、徒歩で至近のファミリーマートに向かい、店に三分ほど滞留したのち西口公園に到着。三人掛けのベンチの真ん中に一人で座り、350mlのキリンラガービール一缶を一息で飲み干す。空いた缶を周囲を気にしながらベンチの下に置き、先ほど購入した小瓶から首筋に何かを吹き付けた。
午後6時48分、男性(以下Aと称する)がターゲットに接近、声をかける。Aの年齢は見た目で30代前半、ターゲットより少し下ではないかと思われる。髪は軽く茶色に染めた短髪(ソフトモヒカン?)、上半身が大きいスポーツマン風の体形、スーツは一般的なものよりわずかだが高級感が感じられる(デート用?)。
ターゲットはAと談笑、互いに何度も頭を下げる身振りなどから待ち合わせだと思われる。二人は徒歩で池袋駅方向へと向かう。
午後7時11分、ターゲットとAは池袋駅西口より東武百貨店に入り、先ほどターゲットが寄った貴金属店でネックレスを一本購入。支払いはAが行った。ターゲットはネックレスを着けたままAと一緒に店を出る。
午後7時28分、ターゲットとAは再び池袋駅西口を出て、徒歩で繁華街の方向へ向かう。繁華街でバーが数件入る雑居ビルに入るが、規定により我々の入館は禁じられているため外で待つ。
午後8時53分、ターゲットとAがビルを出る。ターゲットの顔は薄暗がりでも視認できるほど赤く、往来にも関わらず大声で笑うところから、酔いが回っていると思われる。Aがターゲットの腰に手をまわしているが、ターゲットは自力で歩いているように見える。
午後9時02分。ターゲットとAは池袋駅北側線路沿いの建物が密集した地帯に入った、下から照明で明るく照らされたヨーロッパの城のような建物に二人が一緒に入った事を確認して(添付写真参照)一旦追尾を終了。ターゲットの自宅に戻る。
午後11時32分、ターゲットが帰宅。
午前 0時38分、ターゲットの夫が帰宅。
7月30日。
午後4時58分、ターゲットが自宅を出る。
ターゲットは西武池袋線に……
8月22日。
「君……これは、やめておきなさい」
「えー、なんでですか。すごく苦労したんですよ、僕としては会心の尾行だったんですけど」
「それは分かるよ、微に入り細に入り実によく観察しているからね。まさか君がここまでやるなんて先生である僕も正直頭が下がる思いだよ。でも中学生の夏休みの自由研究として、これはどうなのかな?」
「だってテーマを決めたのは先生ですよ、僕は小学生みたいだからやめた方がいいって、ホームルームの時に言いましたよね?」
「いやそういう方向の話ではなくてね、とにかくクラスで発表するのはやめなさい、大人の
「だって『私の家族』ってテーマなら、僕の場合は両親の二人しかいないじゃないですか。それとも何ですか? 犬のコタローでも良かったんですか? お父さんは会社で残業しているだけだし、僕は残ったお母さんを研究するしかないじゃないですか!」
「研究はいいよ、でもこれを発表したら家庭がどうなるかも考えるべきではないかい? ていうか、全国の学校で長年使い古された平凡なテーマが、まさかこんな事態を引き起こすなんて先生は夢にも思わなかったよ。僕としてはいっそコタローにしてほしかった」
「犬でも?」
「犬でもね。とにかくいいかい? このレポートは他の誰にも見せてはいけないよ、特にお父さんには絶対に。点数は気にしなくていいから、満点をあげるから」
「わかりました、先生がそこまでおっしゃるのなら発表は諦めます。では今後とも卒業までいろいろとよろしくお願いしますね、”アカシ”先生」
浮気調査 岩と氷 @iwatokori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます