終 VSつよーいおじさん

 ドローレスは目を覚ました。

 視界の先は真っ白な何も無い個室で、自身は椅子に縄で縛られながら座っている状態だ。

 あれから何時間経ったのだろうか。

 恐らく忍者に誘拐される寸前睡眠薬でも飲まされ、気がつけばこの場にいると考えられる。

 自分が性犯罪者にならぬよう自制を強いられ続ける生活が始まるかと思いきやこのザマであり、そんな不幸の重なりから、


「今日は厄日ですわ……」


 ついこのような言葉が出てしまった。

 だが、彼女の不幸はこの程度では終わらない。


「お疲れ様でござる」


 部屋に、あの忍者が入ってきた。

 彼こそはドローレスを誘拐した犯人であり、顔を合わせるや否や憎悪の目を向けた。


わたくしからパスワードを知りたいからとこのような屈辱的姿にするなどと……許せませんわ!」

「いや、拙者はそういうつもりではないでござる」

「くっ、今すぐわたくしを殺しなさい! こんな姿になるなど一生の不覚でしてよ!」


 ドローレスは、もはや自分のプライドこそが最優先であり忍者の話を聞いていない。

 なお、この忍者の名は影神丸えいじんまると言い、ドローレスの誘拐は別に彼女が持つパスワードが目的ではなく、彼女をダシにしてこの小細工も何も無い部屋で“ジェノサイドマーダー”と呼ばれる最強の幼女を呼び寄せて勝負をしたかっただけなのだ。

 忍者一族の末裔である彼は、玄人殺しの2つ名で呼ばれており、自分より強い人間を探して正々堂々の真剣勝負を倒すことを生業としている。これこそ、殺人鬼三銃士に名を連ねる理由だ。

 なので、“ジェノサイドマーダー”が現れ次第別の部屋に移して解放してやろうと考えているのだが、肝心の人質であるドローレスは全くもって話を聞こうとしない、大問題だ。


「どうしてこうなったのでこざる」


 深く溜息をつく影神丸。

 だが、そんな彼に転機が訪れる。


「みーつけた♡」


 部屋の扉を蹴破り、1人の幼女が入ってきた。

 彼女は“ジェノサイドマーダー”こと正陸めいと。影神丸にとって、待ちかねていた来客である。


「おねーさんを返してもらうよ♡おじさん♡」

「メスガキとは聞いていたがここまで生意気とは……。まあいい、この部屋で勝負してくれないでござるか? 武器はなんでもOKのデスマッチでござる」


 影神丸は気を取り直しつつ、めいとに対して勝負を申し込む。


「いいよ♡おじさんはさっきまでのぶっさいくな人達と違って強そうだから楽しみだなー♡」

 

 めいともまた勝負を申し受け、戦いの構えをとった。つまり、勝負の始まりという訳だ。


わたくしの目の前で幼女が戦っている……これは特等席ではごさいませんこと!?」


 ドローレスも何やかんやで自分の立ち位置を考え直してくれた。影神丸はもうこいつを部屋から出すのもわーきゃー言われそうだなと面倒になり、彼女を部屋の中央に置いたままま勝負を続けることにした。


「!!」


 めいとは先手として影神丸の方を狙って飛び上がったが、その行動自体を読んでいたのか宙に向けてクナイが何本か投擲された。


「うっわ♡はっやーい♡」


 肩に飛び乗るのをやめて空中で回転して回避を試みためいとであったが、着地と同時に足向けて追加でクナイを投げられ、上手くすり足で位置をずらしたがかすり傷を受けてしまう。


「今日私に傷をつけたのはおじさんが始めてだよ♡すっごーい♡100点に花丸も付けちゃいたい♡」


 小学生扱いしてくるメスガキを前に苛立つ影神丸であったが、今の敵は自分の求めた好敵手の“ジェノサイドマーダー”、むしろ冷静さを崩すための口八丁だと考え、怒りが前に出るような判断はせぬようにと予定通りの立ち回りを続けることにした。


「!」


 更に投擲されるクナイはめいとを狙う。

 しかし、めいとも歴戦のメスガキであり、その程度の攻撃を食らうことは無い。

 そう、なんとスライディングで影神丸の足元まで一気に移動したのだ。


「このクナイ、いい質だね♡プレゼントありがと♡」


 更には、回避移動と同時に投擲されたクナイを1本掴んで回収しており、それを右手で握り股間部に突き刺そうとした。


「えい♡」

「甘い!」


 その時、確かにクナイは影神丸に突き刺ささろうとしていた。

 だが、実際に突き刺したのは等身大に切り落とされた丸太であった。


「忍法身代わりの術、この程度も読めぬとは“ジェノサイドマーダー”もまだまだでごさるな」


 そうして、次に投げられたのは何枚もの手裏剣だ。

 回避しようにも攻撃動作と同じタイミングであり、めいとは不覚ながら1枚肩に突き刺さってしまう。


「痛ったぁい♡」


 声こそ先程と同じ甘い声で余裕気のあるものだが、影神丸の実力を前に余裕を失い少し焦りのある表情は見せるめいと。

 とはいえ、まだ1回刃物で刺された程度だ、負けを認めるような場面ではない。まずは、手に握ったクナイを彼に向かって投げようとした。


「忍法分身の術! どちらかは偽物で攻撃すれば一瞬で消えてしまうが、それ即ち致命的な隙を作ってしまうことになるでござる!」


 この時のめいとはまだまだ甘かった。いや、想像力が足りなかった。

 影神丸は忍者である。なので、己と全く同じ姿の分身を作り出すことは容易なのだ。どちらが本物とも読めない正確なコピーを前に、めいとはほんの1秒だけクナイの投擲を躊躇ってしまった。


「隙あり!」


 その瞬間を逃さず、影神丸はまた手裏剣を投げた。

 すると、回避行動さえとれたものの、ソレはめいとの右手に突き刺さり、握っていたクナイを手から落としてしまう。


「痛い……痛い……」


 弱音を吐きながらも、次の手を考えるめいと。痛いからといってそれが更なる隙を産めばそのまま畳み掛けられてしまう。それだけは避けたい。

 問題は、彼の忍術に自身が対応しきれていない点だろう。確かに有栖川やクックールより各段上の実力者であることは読めていたが、まさかここまで自分を追い詰める人物とは考えていなかった。その油断がこのような事態を招いた事も、同様に理解わかる。


「この程度じゃ……負けないよ♡」


 少し暗いトーンの声を出していためいとだったが、持ち前の甘くて蕩けるような声に切り替え、それでもと分身する2人の影神丸の内1人を狙い、クナイを再び拾い上げて握り飛びかかった。

 だがしかし、狙いをつけた影神丸は分身の方であり、これは即ちこのままではめいとは負けてしまうピンチなのである。


 ――いや、その時だった。


「そろそろ囚われのお姫様も飽きてきましたわ。わたくし、あの類のヒロインは大嫌いですの」


 突如、椅子に縛り付けられていたドローレスが体に大きく力を入れると、縄が破れほどけた!

 その姿を前に、めいとも影神丸も驚き動揺を隠せないでいる。


「特等席での閲覧も飽きましたわ、プライドを傷付けられた仕返しをさせて頂きましょう」


 そして、有無を言わさず彼女は手を尖った槍のような形にすると、そのまま右腕で影神丸を刺突した。

 動揺のあまり回避行動が遅れ、左の二の腕に命中するとそこから血が吹き出すように出血。ドローレスはそれからも攻撃の構えをとり、次の一撃を狙わんと目を光らせている。


「ドレスに血がつきましたわ、せっかくのお気に入りでしたのに」


 この攻撃の名はハンドレイピアと呼ばれるモノで、現代において帯刀が許されない騎士達が手刀による刺突を極限まで極めることでレイピアの一刺しを素手で行えるまでに発展させた曲芸技。(メスガキ書房より出版『現代の騎士道』から引用)

 そう、ドローレスが身につけている護身術とはハンドレイピアのことであり、実力は既に達人級だ。

 その二つ名は“女騎士”であり、高いプライドも騎士としての誇りの表れである。

 つまるところ、何故父ではなく彼女に財産のパスワードが託されているかと言えば、彼女自身が父より物理的に強いからという単純明快な理由だ。

 何故今回の誘拐事件が発生したかについても、ハンドレイピアの達人の域に到達した彼女が、これから不意打ちに対する訓練を行っていくという過程の中で起きたためにあっさり連れ去られた。それだけに過ぎない。

 更に言えば、めいとに守ってもらう必要があったのもこの不意打ち対策が万全になるまでの期間を埋める為であり、その意味を成さないようなミスをしためいとは、もしこれでドローレスに傷が付いてしまうようなことがあれば母から受けるお仕置きは尻叩き100回程度では済まないだろう。


「おねーさん、そんなに強かったんだねー♡」

「ふふっ、己の武術を幼女に褒められるとは恐悦至極。とても嬉しいですわ」

「ぐぐ、敵が増えてしまったでござるな……」


 さて、これによってめいとは2対1で戦える有利な状況を得た。

 一度は自身がまだまだ戦闘経験の浅いメスガキに過ぎないと理解わからされてしまった彼女であったが、こうなれば再び攻めない手はない。

 なので、ドローレスと会話をしながらも傷を負った影神丸に向かって手に持つクナイで斬りかかった。


「甘い!」


 だが、その攻撃は軽快なバク宙で後ろに下がられて回避されてしまう。


「2人がかりだろうと負けはしないでござる! 忍法分身の術!」


 またも分身を作り出し2人に別れる影神丸。

 対して、メスガキと女騎士のバディも負けていられない。


「でしたら、手分けして殴ればいいだけのことですわ」

「そーいうこと♡」


 ドローレスはハンドレイピアによる刺突を、めいとはクナイを逆手持ちにしながらまたも影神丸に飛びかかった。

 その攻撃を前にした影神丸は、分身と同時に口元を晒しながら顔を前に突き出しこう叫ぶ。


「忍法火遁の術!」


 すると、2人の忍者の口から炎が吹き出され、部屋中を一気に炎が覆い尽くす。

 この状況、一瞬にしてメスガキと女騎士は不利になったかのように見える!


「そんなマッチ棒レベルの火、効きませんことよ~!」


 しかして相手は猛者のバディ、ドローレスが足払いすると、その炎は一瞬でかき消された!


「そんなのありでござるか!?」


 そこから、払った足を地面につけながら前へと踏み込み、2人いる影神丸の1人にハンドレイピアを突き刺す!


「こちらは偽物でしたわね」


 ドローレスの狙いは分身であり、命中と同時に消え去る。


「ありがと、おねーさん♡」


 故に、残った影神丸本体に対して、めいとのクナイが突き刺さった!

 首元をグサリとえぐるその一撃は、影神丸にとって致命傷!


「グワーッ!」


 しかも、それだけでは終わらない。

 己の死を理解した上で悪あがきをしてやろうと反撃を試みる影神丸であったが、そのような行動を許さないかのごとく胸部にドローレスのハンドレイピアが見事に命中する。


「先程は上手くココを狙えませんでしたからね、リベンジですわ」


 ドローレスの右腕は影神丸の胸に入り込み、ついには心臓を掴み取った。

 そして、右腕はすぐに引き抜かれる、ドクッドクッと音を立てる心臓と共に。

 影神丸は首に致命傷を受け、更には自身の視界の先で掴まれた心臓を見るハメになったのだ。流石にここまで最悪な人生の終わりも他にはないだろう。


「その心臓、私がつぶしたーい♡」

「幼女の頼みとあらば当然差し上げますわ〜♡♡♡」


 そんな悲劇の影神丸を前に、めいとはドローレスに甘え、彼女が掴む心臓を受け取っていた。


「小学生と女子高生相手に心臓ハートを掴まれちゃったね♡無様♡無様♡クソ無様おじさん♡」


 最後に、グシャリと心臓は握り潰され、影神丸は完全に死亡した。


「うわぁ♡おねーさん、びしょびしょだね♡」

「そう言う貴女も大概でしてよ」


 服に大量の血がついた2人はまさしく血化粧となり、赤く染まり美しい姿をしている。

 窮地に立たされ、一度は焦った表情を見せためいとも今では笑顔だ。

 それに、以心伝心で戦いを繰り広げた事で何か友情のようなものが2人には芽生えていた。微笑ましいことだ。

 ちなみに、この一夜の間に23人もの屍の山が築き上げられた訳だが、それについては国の偉い人や掃除屋さん達が上手く処分してくれるので、めいとが細かいことを特に気にする必要はない。


「では、帰りますわよ」

「うん♡」


 その後、影神丸の家から出ていく2人は一緒に手をつなぎ歩いて自宅へと帰っていった。まさしく、仲のいい子供と年上のお姉さんとも言える姿だ。

 なお、その手を繋いでいる時、ドローレスがめいとへ向ける表情はロリコン特有の幼女を舐め回す気持ち悪い目であった。


(ちゃんとこのおねーさんはロリコンのままだ♡この顔をまだまだ見たいなー♡これからもたーぷりたぶらかしちゃお♡)

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メスガキはジェノサイドマーダー! リリーキッチン百合塚 @yurikiti009

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