中 VSこわーいおじさん

 ここはどこかにある廃工場。

 そこでは、ヤクザ組織であるのめす組と餓鬼がき組が麻薬取引を行っていた。

 

「これだけあれば十分か?」

「ああ、いい取引だった」


 ヤクザは皆真っ黒なスーツにサングラスを掛けてイカつい顔の成人男性、各組それぞれ10人おり、皆拳銃チャカを片手に握りながら、ピリピリした雰囲気の中での取引となっている。

 それぞれ札束と白い粉がギッチリ入ったアタッシュケースが交換される光景は、正しく皆がイメージするヤクザ達の世界だろう。

 そんな中で、1人だけその場にそぐわない男がいた。

 タンクトップに短パン、褐色にスキンヘッドの筋肉隆々な明らかに日本人ではない人物。彼の名はクックール、アメリカから来たフリーの殺し屋であり、殺人鬼三銃士の1人である。


「つまんねぇ仕事だぜ」


 何故ここにいるかと言われれば、取引に不備があった際に起きる喧嘩を仲裁するために雇われたからだ。同時に、ここにいる彼らが同時に暴れても止められる実力を持っていることにもなる。

 しかし、どうやら今回は順当な取引が行われているようで、非常に退屈そうにしていた。


「では、我々はこれで」

「いい取引でした。またの機会をお待ちしています」


 気付けば、クックールの仕事はこれで終わりのようだ。つまり、この夜は所謂戦闘中毒者バトルジャンキーである彼にとって、支払われる人件費を加味しても苦痛な時間でしか無かったことになる。

 なお、殺人鬼三銃士に名を連ねる通り、彼は様々な国の路地裏でストリートファイトに勤しむ若者に喧嘩を売ってはやりすぎて殺してしまうという倫理欠落者なのだ。つまり、生活費確保の為の仕事がただの傍観者で終わったという事象は、今宵もまた罪なきストリートファイターが血を流す悲劇の引き金であることを意味し、似たようなことは既に数十回起きている。

 ……だが、この夜に関しては、少し例外であった。


「麻薬は悪いお薬だってセンセーが言ってたから、それを売り買いするこわーいおじさん達は殺しちゃっていいよね♡」


 取引を円満に終えたヤクザ達の耳に、甘い声の少女の声が鳴り響く。


「何者だ!」

「ゆ、幽霊か!?」


 困惑するヤクザ達。

 この状況下では子供のイタズラとしか考えられず、光源は周囲に置かれたLEDランタンのみであり、急いで懐中電灯を取り出し辺りを照らした程度では犯人を見つけることは出来なかった。

 そんなパニックの中で、


 パァン!


 と銃声が鳴り響いた。

 焦りに焦るヤクザ達が音の元へ一斉に懐中電灯を当てると、そこにはめす組の組員が頭部を撃ち抜かれ倒れた姿があった。

 これは、手持ちの拳銃チャカを奪われ頭部を撃ち抜かれたとしか考えられないが、その犯人は何者なのだろうか? 疑問が増える中で倒れた組員の周辺が照らされると、そこには拳銃チャカを握るツインテールの幼女がニタニタ笑いながら立っていた。


「この程度の不意打ちも想定してないなんて、おバカさんだね♡」


 その時、ヤクザ達は確かに彼女が犯人だと判断はできた。しかし、それと同時にまさかこのようなメスガキ如きが拳銃を奪い人を殺すなどという非現実的光景を誰一人飲み込めないでいたのだ。

 残念ながら頭を整理するための時間が止まってくれることは無く、幼女は有無を言わさずに拳銃チャカの引き金を引き、餓鬼がき組の組員3人の額を撃ち抜いた。


「バァン♡バァン♡バァン♡」


 ついにこの幼女こそが犯人だと理解し、1秒でも早く殺さねばと手を合わせ全員で発砲するめす組と餓鬼がき組の組員達。

 だが、素早く幼女は飛び上がりその全てを回避した。

 そして、餓鬼がき組の組員の肩に飛び乗るや否や、スルッとその者の拳銃チャカを奪い取り、すぐ様に手持ちの拳銃チャカと合わせて二丁拳銃状態で引き金を引き続けながらヤクザ達の額を撃ち抜く大量殺戮ジェノサイドを繰り広げる!


「ざーこ♡ざーこ♡ざこガンナー♡日本だとあんまり銃を撃つ機会がないんだね♡」

「「「「グワーッ!」」」」


 肩の上に幼女を載せるヤクザ以外は死亡。

 更には、最後に残った彼も後頭部に直接銃口を突きつけられながら引き金を引かれ、息絶えてしまう。


「肩車ありがとね、おじさん♡」


 一瞬だ。一瞬にして2組のヤクザ達合計20人は全滅した。

 この屍の山を築く最強の幼女こそは……!


「お前、噂のジェノサイドマーダーなんじゃないの? 正体みたり! って感じだな。楽しみになってきた」


 正陸めいと、ロリコンのおねーさんを救うため“殺しべ長者作戦”を遂行するこの物語の主人公だ!

 なお、この銃弾の嵐の中で、クックールだけは生き残っていた。何故なら、戦闘中毒者バトルジャンキーである彼は、当然銃弾を避ける術を持ち合わせている。なので、それだけの実力を持つからこそ、目の前に現れた“ジェノサイドマーダー”こと正陸めいとに対して興奮を隠せてないでいる。


「うっわぁ♡おじさんおっきいね♡」

 

 めいとのその言葉は、当然彼の外見に対してである。

 クックールは193.4cmとかなりの高身長だ。そこに加わる引き締まり盛り上がった筋肉は拳ひとつで人を殺す事など容易な程に凶器。なんと、彼女はパッと見たただけで彼の強さを理解したのだ。


「嬢ちゃんみたいなメスガキを拳で理解わからせる、1回やってみたかったんだ、手合わせいいかい?」


 クックールは、そんなめいとを前に勝負を申し込んだ。戦闘中毒者バトルジャンキーである以上、当然といえば当然の判断だ。


「うん、いいよ♡その代わりおじさんから聞きたいことがあるの♡」


 対してめいとは、手早く情報収集を済ませようと目論んだ。

 今の間に情報を確保出来れば、やり過ぎで取り逃すことも無い。

 なおその会話をしながら彼女は暇潰しと言わんばかりに手元の拳銃2本を分解している。


「よし、何でも言ってみな」

「今、忍者がどこにいるか知ってたりする? 教えて教えてー♡」

「知ってるぜ、今あいつは自分家じぶんちでどっかの令嬢を誘拐して誰かを待ってるらしいんだ。どうせ身代金目当てだろう、住所はこれだ、受け取れ」


 結果、クックールはパパっと紙に忍者の家の住所を書き留め、めいとに投げ渡した。

 彼と忍者は友人同士であり、完全にプライバシー違反な行いではあるのだが、勝負をするためなら友情を裏切るのは戦闘中毒者バトルジャンキーとして当然の行為だ。


「ありがと♡」

「よし、じゃあ始めるか!」


 勝負のための前準備は終わり、2人は2m程距離を離した位置で拳を構える。

 そして、2人が足を動かした一瞬の中で、メスガキがわるーいおじさんをこらしめるための戦いのゴングが鳴り響いた。


「喰らえ!」


 最初に、めいとに向けて振り下ろされる拳。


「おそーい♡」


 それは、少し首を逸らしただけで回避される。

 更には、首の横にあるクックール右腕を両手で掴み……、


「下に向けて殴ると体のバランスが悪くなるんだよ♡」


 背負い投げを行い、彼を地面へと叩きつけたのだ!


「後先考えて行動しなさいってお母さんに言われなかったのかな♡」

「うっせぇ、俺は道徳破りのマザーファッカーだ!」

「うっわぁ♡すっごい親不孝だね♡」


 そして、仰向けに倒れたクックールに対してめいとは馬乗りで胴体に乗りかかった。


「ぐっ、すばしっこいメスガキだぜ」


 だが、一見有利に見えるこの現状も、メスガキと屈強な成人男性の間には体重差は70kg以上あり、すぐに手を打たねば押し返され立ち直られてしまう。

 そこで、めいとはこのような行動に出た。


「えいっ♡」


 それは、両手の人差し指を立て、クックールの両目をグサリと突き刺す目潰しの攻撃だ。

 目からは血が吹き出て非常にグロテスク。そう、このようなエゲツない行いにも抵抗を感じないことこそがめいとの強みである。


「ア"ァ"ーーー!!!!」


 たった一撃で両目の眼球を破壊されたクックールは、痛みと同時に自身で失明したという事実が襲いかかり叫び慌てる。

 ここで生まれた隙を逃すはずもなく、めいとはヘッドロックの形で血のついた両腕を使い彼の首をホールドし、一気に絞めていく。


「イッちゃえ♡イキ死んじゃえ♡」

「ゴギャォォォゴゴゴゴ」

「小学生との素手対決で負けるなんて、おじさんすっごい恥ずかしい姿してる♡ぶっさいくだなぁ♡」


 結果、クックールは泡を吹きながら窒息死した。

 一見すると屈強な成人男性であるクックールが勝ちそうな対決だったが、現実は小柄なメスガキのめいとが圧倒的実力差で勝利。

 情報も回収した以上めいとが彼を生かす理由もなく、殺害という手っ取り早い行動に出れたのもこの勝負の素早さの要因だろう。


「よし、じゃあ急いでおねーさんの元へ向かわなきゃ♡」


 その後、めいとは廃工場から去り、クックールから教えてもらった忍者の家へと走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る