第4話 幸運

 カナがとっさに答えず、

 視線をそらした先には――


「レオ兄? さっきからなんの話をしてるの?」


 不思議そうに話している二人を見つめていた。


「っつ――」


 驚愕と体に起きた変化を理解していたレオは

 声にならない悲鳴を上げた。

「レ、レオ?」


 レオの様子に違和感を覚えたカナが問い掛けるが、

 レオが腕を抑えていた。剣がかすったようだ。


「レオ!」


 抑えている手の隙間から見える服は汚れてきている。

「レオ兄ぃ!」

 止血して外敵がいるであろう方向を見据える。

 

 「全く。マリ・ジャクソン公爵夫人も傲慢だ。

 この地区すべてを回ってでも飼い猫を探せとは」

 その闖入者にカナは眼を丸くした。

「ジョン・ブラット……」

 長身瘦躯で黒髪、眼を引くのは左の眼尻から口角にかけて奔る古傷だった。


「カナ・マリアン・フィートか。

 久しぶりだな。

 確かお前、上級地区の政府に追われてんだろ。

 こんなとこに居ててへいきかぁ?」


「なんであんたが知ってるの? 誰の依頼でレオを?」


「お前が追われてるのは有名な話だし。

 今回はとある貴族より猫奪還の依頼が入ってねぇ。

“下級地区に猫が入りこんだ。至急、見つけ保護してほしい。

 万が一誰かが触れているのを見つけたら追い払え”って」


 説明に対してレオナは憤然と顔をあげた。


「レオ兄は関係ないよ!

 何もしてないのに刺そうとするなんて」

 掴みかかろうとしたレオナをカナは止めた。

「待て!ジョンは副業での同門だ。

 あいつは強い。下がっていてくれ」

 レオは妹に危害が加わらないよう

 言葉を選んで話していく。


「猫は、返す。

 だから――ここにいる奴は見過ごしてくれない、か?」


 ジョンと呼ばれた男は

 一呼吸分思案してこう言った。


「それを決めるのはお前次第だな。お前は触ったのか、ただ眺めていただけか」

「眺めていただけだ」

 男は猫を片手に飄々とそんな言葉を残して去った。

 男の真意はわからない。

 見逃してくれたのはただ単に運が良かっただけなのか、他に思惑があるのかもしれない。

 子猫はジョンによってあるべき世界に戻された。

 ☆☆☆


 レオはその後しばらく仕事はできなくなったが、無事に住みたい場所に転居できた。

 レオナは使用人として大きな屋敷で働きながら、使用人同士の結婚をするそうだ。


 END


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てられた兄妹の生き方 完 朝香るか @kouhi-sairin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ