第3話 猫の名前

 ☆☆

 レオは踏み固められただけの地面に

 小さな食器をコトリと餌を置いた。

 一匹の猫がそれを舐めている。


「それで足りる? ミルクとか無くて平気なのかな~?」

 心配そうに覗き込んでいるレオナ。

 レオは平然と答えた。

「この猫は食べすぎだからな。

 少しくらい抜いたほうが健康のためだろ」

「そっか。名前は何がいいかな?」


「ジョンってのはどうだ?」

 少女は満足そうにうなずいた。


 妹が言っていた約束時間を知らせてやった。

「そういえば。

 カナに見せに行くんじゃないのか?」

「そうだった~。行ってくるね!」

 

 レオと同い年で気安く付き合っているため、

 ぼろくそに配慮のないことまで

 口にする困った姉のような存在だ。


「カナに聞いてみるとするか。

 随分毛並みが綺麗な猫だし。

 誰かが探しているかもしれない」

 レオが腰を上げた時、レオナが走ってきた。

 全力で走ってきたらしく息が乱れている。

「レオ兄! カナ姐がね。話があるって」


 カナは近寄りがたい美人である。

 その彼女が険しい顔をして尋ねた。

「レオ! まさかと思うけど飼おうとしているのは

 貴族の猫じゃないだろうね?  人によったら殺されるよ」


「分かってるさ。だけどお前に頼めば何とかなるだろ?」

 清廉な微笑みとも腹黒い笑みとも

 判別出来ない笑みを浮かべるレオ


「この私に、問題にならないよう協力しろとは。

 レオって度胸あるんだか、馬鹿なんだか」

 話を心配そうに聞いていたレオナは

 カナの返事を聞くなり彼女に抱きついた。

「やっぱカナ姐は頼りになる。ありがと~」


「そろそろ猫のジョンの世話をしてやれよ」


 レオナが視線を下げればジョンが


 こちらをむいて座っていた。


「ごめんね。あそぼ!」


 さらに嬉しそうにしてカナの傍から離れて、

 楽しそうにじゃれ合いはじめた。

 

「どうした?」

「上級の地区の土地を買ったんだろ?」

 レオナを守るために、兄は随分危険な橋を渡っていった。

 すべては生きるため。レオナを汚れ仕事に関わらせないようにしてきた分、レオは人には言えないことをやってきた。カナは知っているが、何も言わない。

「ああ。使用人を雇う金はないが、何とか働き口も見つかったし」

「レオナは?」


「手に職がないが、あの美貌だからな。貴族との結婚が待っているさ」

「確かにな。レオナにはきちんとした技術を付けないとと思っていた。

 結婚できるのならこちらの世界に染まることはないさ」

「ああ」

 同じような境遇で育ったカナからの理解がとてもこころ強かった。



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