第2話 身売りと貴族

「失礼するよ。

 天使と名高いお嬢さんを私に売ってくれないかい?」


 こうして突っかかってくる腑抜けも何人かいる。


「さあ早く」

 

「レ、レオ兄どうしよう」


 俺は誰もが怯む声を出した。

「誰が腐った要求呑むか! ざけるんじゃねぇ!」


 熱くなってしまうのが悪い癖だ。


「あんたみたいな品のない口のきくと

 必ず後悔することになるんだ。不幸がくるよ」

 

 喚くだけ喚いて去っていった。


 老女を見送った俺は小さく舌打ちをした。

「全く何なんだよ」

 全身を堅く強張らせているレオナに俺は笑いかけた。


「大丈夫だ。守るから安心しろよ!」

「うん」

 

 猫を抱きしめながら深い眠りに落ちて行った。

 


 

 ☆☆☆

 広い屋敷内にあり、


 金色を基調としたきらびやかな部屋の中。


 悠然と立ち、怒鳴っている中年の女がいた。


「わたくしのリミットちゃんはどこなのです? 

 早く見つけて頂戴!」


 ヒステリックに叫んでいる


 この屋敷の女主人はマリ・ジャクソン。


 苛立ちからか、

 アクセサリーが何もない金髪を掻き毟る。


「マリ様、落ち着いて下さいませ。

 その猫は治安の悪い下級地区にいるようで」


 マリと呼ばれた豪華な装いの中年の女。


 使用人のある言葉に反応し、睨みつけた。


「『その猫』などとはなんて無礼な呼び方を! 

 リミットちゃんですわ」


「申し訳ござ――」


「謝罪は結構ですわ。

 あんな汚らわしい地域に入ってゆくのを

 何故止めないのですか?」


「で、ですからっ。保護出来なかったのです。

 使用人の手では触るなと申されましたし、

 不注意で我らの財布が無くなってしまい」


「財布など知った事ではありません。

 水仕事や畑仕事で汚れたその手で、

 あの子に触るなど許しませんわ! 

 なんて、汚らわしいこと! 

 お前達があの仔の周りをうろつくだけでも嫌ですのに」


 なんとも無理難題である。


「あの子を見付けることも出来ない、

 役立たずは解雇ですわ! 

 早く探していらっしゃいな!」


 

「しかし、政府の役人に聞かれたほうが確実では」


「あんな無粋な輩の手は借りたくはありません――

 お前達が探せなかったその時に考えますわ。

 一刻も早く無事に保護なさい」


 酷い暴言に使用人は青ざめていた。

 


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