第1話
──第7区裏路地。
下水道から昇る得体の知れない蒸気に満ちた湿った場所に三つの影が蠢いていた。
「ぶぅんぶぅんぶぅぅん」
小柄な影が唐突に奇声を発し、正面に座した細身の影は不快そうな仕草をすると改めて問いを返す。
「なんだそれハエのマネか?」
「ちがうよ、これはこの間両足を切り落としてクルマのエンジンに組み込んだヒトのマネ!」
そう言って再び「ぶぅんぶぅん」とうなり出す小柄な影に対して引きながら先週の“仕事”を思い出していた。
「あーそう言えばそんな仕事したな」
あの時は面倒だった、協会員の連中が出張ってくるのは想定外だったから。普段はロクに仕事もしない癖に何を思ったか気紛れで動きやがる。連中に俺たちの勤勉さを分けてやりたいくらいだ。などと苛立ちを覚え始めた所にもう一つの影が静かに告げた。
「仕事が入った」
対面で座る小柄と細身の二つの影より少し奥で静かに立っていた大柄な影が告げると、小柄と細身も立ち上がった。
「やれやれもう仕事か。今週はまだ休んでないのに」
「ボクはお仕事スキだよ?」
「お前はまだ分かっちゃいないのさ、仕事って言うものがな。良い仕事ってのは休みと両立してこそ出来るモノなんだよ」
「ふーん……よく分かんないけど休むのもスキだよ。二人とお喋り出来るから!」
無邪気に言う小柄に細身は呆れた仕草だけで答えたが、その背後で大柄な影が一つ息を吐いて続けた。
「良い仕事を出来るか出来ないか、じゃない。俺たちはプロだ。プロは仕事の結果だけで語るべきだ。そうでなければ評価されない」
「っても
「休めば感覚が鈍る。プロはタフでは無くデリケートであるべきだ」
「いやいや……まったくボスには敵わないな。流石仕事人間!」
と、持ち上げる細身の言葉に大柄は頷くと、二人を引き連れる様に歩き出した。
「無駄話は終わりだ。仕事が待っている」
「わーい! 今度はどんな仕事なの?」
小柄が問いかけると大柄は静かに答えた。
「次の“仕事場”は準一級だ。色付き候補の一人の女で名前はラルザ・ホワイティ。こんなに楽しみな仕事は久方ぶりだ、これでこそプロに相応しい。この仕事を機に俺たちは更なる高みへと登る────俺たち〈
エス-幾何学的精神紋様- ガリアンデル @galliandel
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