私、その謎の会食相手。この病院までお見舞いに来てるの。

@HasumiChouji

私、その謎の会食相手。この病院までお見舞いに来てるの。

「最近、ニュース見る暇も無かったんで、今朝になるまで知らなかったんですけど……」

「なに?」

 食事休憩中の後輩の看護師との何げない会話だった。

「例の新型株に感染してる患者さん。ウチの病院に担ぎ込まれる直前まで、誰かと会食してたんですか?」

「うん。同じレストランに居た客は、全員、隔離されて、半分以上の人からは新型株が検出されたって……ただ……」

「私も聞いてビックリしましたよ。肝心の会食相手だけが身元も行方も一切合切不明だって……」

「そ……。そして、あの患者さんは誰とも会食してない、って言い張ってる。でも、あの患者さんのクレカで、ちゃんと2人分の代金が支払われてて……」

「ちょっと待って下さい。いつ支払ったんですか?」

「えっ?」

「いや、だって、あの患者さん、食事中に急に高熱を出して、救急車でウチの病院に担ぎ込まれたんですよね? じゃあ……いつ……その……?」

「あ……」


 とは言え、あの患者さんについて知ってる事は……治療に必要な情報を除いては、複数のニュースやSNSの書き込みから得た情報だ。

 ソースが違う複数の情報のどれかが間違っているだけだろう……そう思いながら食事を終え廊下を歩いていると……。

「あの……例の伝染病の患者さんが入っているICUはこちらで良かったですか?」

「え? ちょっと待って下さい? あの一般の方は……」

 そう言おうとした時、既に、その女性の姿は消えていた……。

 待て……。

 あの姿は……お洒落だけど、服も髪型も……。

 それに、今日は大雨の筈なのに、傘も持ってないし、履物や服の裾なども濡れていなかった。

 そうだ……あの患者さんの「会食相手」を目撃した人が言ってた事そのままの姿……。

「あの……○棟×階のICUに外部の方が勝手に向かってるようなんですが……着物姿の若い女性の方です」

 院内用の携帯電話で警備室に連絡……だが……。

「え? その階の監視カメラには、それらしい人は誰も……」

 いや……本当に待ってくれ……。

 たしか、あの患者さんの「会食相手」が行方の素性も全く不明な理由の1つは……近隣の街頭監視カメラの映像をいくら調べても、その「会食相手」を見付ける事が出来なかった為と云う話が……。


 そして、数週間後、私が勤めている病院で、例の伝染病の更に別のタイプの新型株の大規模な院内感染が発生している事が判明した。

 感染経路は全く不明だが……潜伏期間からして、院内感染が最初に発生したのは……九〇%以上の確率で、私が、あの女性を見た日±2日間らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、その謎の会食相手。この病院までお見舞いに来てるの。 @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ