MISSION 64. アナログの脅威


 艦隊の影が視認できた瞬間、多数の巡航ミサイルや対艦ミサイルが終末誘導に入り、各艦影へと突き進んでいく。


 リディア大佐や追随する無人機のレーザー誘導で、四つの標的にミサイルが吸い込まれるのだが、


「なあリリィ。おれの網膜に映っている艦隊に疑問がある」

『なによ?』


 全体的にはきりが晴れているようで、ところどころもやのかかる戦場全体を俯瞰すれば、中央に巨大なアートのような氷山が居座っており、その周りを囲むように四つの巨大な艦影が佇む。


 情報にあったメガフロートのような氷山空母ハバクックは見当たらず、情報になかったが、に呑み込まれているかのように鎮座していた。


 ただその艦隊の見た目が――――


「あれどう見ても戦艦だよな!?」

『そのようね。アイオワ級のアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシンだわ』

「いやいや、いくらなんでも前時代の遺物じゃん! 氷山空母ハバクックより新しいけど……、いや、近代化改修済みだからなんとか現代戦でも使えるけど、それでも無人で運用できるほどの代物じゃないぞ?? 中はアナログ時代の設計そのままんまなはずだぞ!!??」

『主砲の50口径40センチ砲9門の火力は脅威よ。ルート計算したらこのままだと合衆国東海岸まで辿り着きそうね。ニューヨークが灰燼に帰すわ』

「いやまあ、36門の艦砲射撃は洒落にならんけども」


 大変困った素振りで肩をすくめる人工頭脳SBDだ。

 その間にも各ミサイルは順調にに向けて伸びている。


「つーか標的は氷山空母ハバクックのはずだろ? なんでミサイル群がしれっと戦艦に向かってんだよ?」

『理に適っているわ。あたしの疑問は【今は儚き遠く理想郷】の動力源だったんだけど、あの4隻の戦艦の22万馬力の蒸気タービンを利用しているようね』


 360°スクリーンが4隻の戦艦から伸びる分厚いケーブルの束を点滅させ、それが氷に潜り込ませるように埋設しているのを示している。

 当然、ケーブル先は中央のアート氷山だった。


「つまり戦艦を撃破すれば……」

『自然に【今は儚き遠く理想郷】を停止させることができるわ』


 眼下に見えるアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシンの4隻は、海に浮いていないのに出力全開で盛んに排煙を吐き出している。


「でも対艦ミサイルじゃ破壊できないじゃーん」


 このミッションが始まる時の会話を思い出してほしい。

 最大装甲厚400ミリに覆われた戦艦を、対艦ミサイルの徹甲榴弾でのなんていうのは不可能だろう。

 司令塔や乗員を削って戦闘不能にするのも、ゲーム的ご都合主義の無人仕様なので難しい。

 しかも船体下部は氷に覆われている。

 そもそもこれでは


『カタログスペック上、あらゆる対戦車兵器を用いればはできそうね』

「それにしたってどうやって…………、あ」


 ――――だから直接の上陸を計画していたのか。

 

『正直に言うけど、あたしたちはスタニスワラAIとの戦いではいつも出遅れているの。あらゆる情報を収集しているつもりでも、相手は斜め上を軽く飛び越えていて推測不可能なのよね』

「確かに最先端と思いきやアナログな方法が多いよな」


 南極沖での無人機に即席爆発装置IEDと榴弾を組み合わせたものや、今回の氷山空母ハバクックに戦艦、そして【今は儚き遠く理想郷】という未完成ぽんこつワープ航法装置をダウングレード応用して使っている。

 まるで現代戦を嘲笑うかのように意表を突くやりかただった。


「ま、ぶっちゃけグランジアの大失態たからね、これ。博物館入りの戦艦4隻をこうも簡単に利用されるなんて」

『これも現役復帰できるようにモスボールされていただけでしょ』

「だからそういうモスボールされた兵器が簡単に盗まれる状況がおかしいって。シナリオ設定でもっと詰めておかないと軍オタ叩かれるぞ?」

『少なくとも4席の戦艦は正式に現役復帰できるよう国防総省からの指示が降りているらしいわよ』

「…………なんですと?」

『ただその議会の承認が降りそうもない指示がどういう意図で出されて実行されたかは不明よ』

「ますますぽんこつじゃねえか」

『それを調べるためにオルガ大佐がいるわ』


 本来ならスヴェート航空実験部隊に加わるはずのオルガ某は、そういう事情で国防総省ペンタゴンにいるのか。


 でもリッチハートのクソ野郎は典型的な頭の固い合州国軍人だから、そんなのに関係なく合州国海軍に忠誠を誓っていそうな感じなんだよな。

 リアルのリッチハートがどういう素性か知らないが、仮想世界でロールプレイに没頭しすぎだろうよ(俺にブーメラン)。


「こちらリディア。標的を各戦艦動力部へと変更。中央氷山にミサイル攻撃は無意味だ。繰り返す、中央氷山にミサイル攻撃は無意味。動力源への集中攻撃へと切り替える」


 ミサイル飽和攻撃の終末プラットフォーム兼戦域通信中継機BACNをも担当するリディア大佐は、連携する各国機への指示調整を担いながら戦闘機の操縦をこなしている。

 優秀すぎるゆえの過労働で心配になってくるレベルだ。


 その間にも追従するミサイル群は四つに分かれ、各戦艦へと軌道修正を開始する。

 例え重装甲を誇る戦艦でも、動力部付近や一部氷から露出しているケーブル束はウィークポイントだ。

 そこを集中攻撃すれば動力源を断れた氷山空母ハバクックは瓦解し、乗組員なしのアイオワ級戦艦群も海を漂うだけの存在となる。


『と、普通はそう考えるわね』

「なにこの人工頭脳SBD、勝手に人の思考をトレースしないでくれる?」


 相変わらずおれのバイタル反応から考えを見事にトレースしてくる。

 これじゃスタニスワラAIもどんな挙動をするかわかったものじゃない。


 そしてその考えは、寸分違わず的中した。


 各戦艦に向けて終末誘導されたミサイル群が、どういうわけか蜘蛛の子を散らすようにぱっと散会したと思ったら、次々とアート氷山や周りの氷塊へと着弾していったのだ。


「なにあの妨害!?」

『アンチ&テイクロックシステムよ。Sシステム妨害やレーザー妨害でシーカーを完全に狂わすわ』


 またしてもわけのわからない敵固有のチートスキルでミサイル群が無効化されたが、このタイミングでレーダースクリーンにフレンドリー反応が出現する。


「これって……、グランジア海軍機の?」

『あらやだ。海軍機どころか空軍機と海兵隊の上陸部隊まで一斉に来たわね』

「作戦進行理解してなくね!?」


 予定ではミサイル飽和、制空からの脅威排除してから上陸だったのが、一挙に大部隊が押し寄せて出現しやがった。あほか。

 同時にレーダーとミサイル警報音が鳴り響き、潜んでいた対空火器がポップアップし、隠蔽されていた氷のバンカーから無人ステルス機が飛び上がってくる。


「うへー、突然の乱戦模様だな」


 おれとリディア大佐は回避機動を取りつつ、絡んできそうな無人ステルス機がこないか警戒する。

 突入してきたグランジア機のフレアが盛んに巻かれ、各種の電波妨害が一層激しく飛び交わし、ドックファイトもおっ始め出した。


 しかし、そんな華々しい航空戦より、


 なにより目を引いたのは、


 ただの動力源と思われた戦艦4隻の主砲塔が回頭を開始し、


 36門の50口径40センチ砲が一斉に発射されたところだった。

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