MISSION 63. VS氷山空母


 作戦目標上空に差し掛かる頃にはすでに多くの敵機が現れており、スヴェート航空実験部隊の各機は迎撃に移っていた。

 

唐瞳タントン交戦開始エンゲージ。ぶっ潰してやる」

「ビター、交戦開始エンゲージ。やってやろうじゃない」


 中でも血気盛んな二人は気炎を吐いて無人機に襲いかかる。

 これではサポートに回るお姉様方、邵景シァオジンとハニーの苦労は計り知れないかもしれない。


 なんたって敵機は想像以上に多い。

 ミルとガトーが加わっていても、かなりの乱戦模様に初期ミッションのユリアナ空襲を思い出させる。


「テーマパーク気分が抜けていないくて結構ね!」

「やれやれ、若者に当てられては困りますよスウィートハニー」


 余裕がなくなると激昂しやすいハニーを、冷静に窘める邵景シァオジンだ。

 それでも両機はしっかりと、互いのバディを援護できる位置取りをしている。


「UG軍及びEG軍によるミサイル攻撃が開始された。わたしたちのほうも間もなくだ」

「始まったか」


 リディア大佐からの通信に、スクリーンは作戦海域全体を映し出す。

 それぞれの位置からグランジア《UG》とオーディアム《EG》から放たれたミサイル群が、無数の光点として氷山空母ハバクックに向かっているが、制空部隊は見えない。


「……もしかして無人機の排除、おれたちに押しつけてる感じ?」

『敵機の露払いはスペシャルフォースで、ある程度の航空優勢が獲得できたら航空部隊と上陸部隊が前進するらしいわ』

「うわ、初期のスペシャルフォース機ってまだいたのかよ」

『あら冷たいわね。そりゃ上位ランカーに比べたら腕は落ちるけど、各国パイロットよりかはは上手いのよ?』

「それにしたって、おれたちだけに制空戦任せるなんて、使い捨て感半端なくね?」


 おれはちょっとした文句の間にも、先行してきた無人機仕様のグリペンJAS39を二機撃墜した。

 360°フルスクリーンを見回せば、スヴェートスコードロンの他にスペシャルフォース機で編成された様々な機種が、秩序だった飛行で無人機と交戦している。

 今まで撃墜されずに生き残っているだけに、腕を過信して単機突入せずしっかり僚機と共に行動ができていた。


『現代の戦闘機パイロットって地上攻撃任務しかしてないでしょ? 満足な制空戦なんてできっこないわ』

「ひでえ言いようだけど、百理ある」


 今の状況、レーダースクリーンはたまに敵味方の光点がちらつくだけで、基本は真っ白と見事な電波妨害。

 おまけにどのミサイルを選んだところでロックが外れまくる。

 刹那の瞬間、ロックオンができて発射しても、途中で誘導が途切れるという素敵な電子光波妨害のてんこもりだった。


「ふ、この戦場、おれだけしか勝たん」


 つまり、ガン射撃が得意なパイロットに恩恵ありまくりな、まるで第二次大戦期に逆戻りしたようなミッションというわけだ。


 そう考えると最新作である【FAO】は、予想していた現代戦とはずいぶんとおもむきがことなるだろう。

 結構なミッションでアナログ的な戦術が多いので、最初にリディア大佐が言った通りの原点回帰がしばしば起こっている模様。


『あたしたちのミサイルも来たわよ』

「オッケー、ほんじゃ突っ込むか」


 スヴェート、スペシャルフォースの両スコードロンが担当するエリア後方、協力関係のある各国艦艇や航空機が集まり、飽和攻撃の一端を担っていた。

 それぞれが持ちうる戦力から、一斉にミサイルが放たれた様子である。


「ほんと、現代は空中給油機で長距離飛行が賄えるのに、なんたって氷山空母を選んだんだか……」


 人工頭脳SBDが訝しむように、おれも敵役のチョイスとして氷山空母を選択した意味を考察する。

 南極でのミッションから、ただの無人航空機プラットフォームなだけではないはずだ。


 その証拠に、氷山空母ハバクックがいると思われる海域、靄だか霧だかで視界が阻まれている。

 氷山空母ハバクック上空にも雲がかかり、これがあらゆる電子機器の偵察を阻害していた。

 向こうにとって都合が良すぎる展開は、必ず何かの伏兵を隠しもっている可能性が微レ在なのだ。


『多分、あの気象状況も【今は儚き遠く理想郷】の仕業ね』

「んだよ、宝具の追加効果かなんか?」


 あまりのチート装置に、おれは半ばやけくそに問い返す。


『仕様上、人類が観測した地点にしか時空の穴を開けられないそうよ。宇宙空間で言うと探査機が観測した宙域ってところかしら。だからあの気象状況も、太陽圏に近い箇所とどこかの宇宙空間からの、その熱量差で引き起こしているようだわ』

「……寒気と暖気をぶつけて嵐を起こしているようなものか」


 とんでもない気象操作するもんだ。

 いくら全天候型の戦闘機を有していても、任意に天候を変えられてはたまったものではない。

 天候が悪いだけで作戦は止まらないが、プラスの影響は奇襲効果以外、特にない。

 しかも今回のように大規模であれば、そもそも奇襲効果なんてないに等しい。


『ちょっと疑問なのは、【今は儚き遠く理想郷】を稼働させる出力はどこから供給しているのか、なのよね』


 人工頭脳SBDのリリィは、豊満な胸を強調するかのように腕を組む。

 視線誘導を狙っているようだが、おれはその手に乗らずに目の前に敵機に集中。

 はい一機撃破。


「普通に考えれば、それようの発電システムがありそうだな。氷山空母ハバクックを動かしてる蒸気タービンとかそういう感じの」

『仮に氷山空母ハバクックが軍用艦艇用の推進装置を搭載していても、その余剰出力だけでは不足よね』


 おれと人工頭脳SBDの会話の最中、ポップアップスクリーンにジェット噴流をちらつかせた巡航ミサイルが表示された。


「これよりわたしは終末誘導に入る」

「お、了解。援護するぜ」


 リディア大佐がプラージャとレジヴィを引き連れ上昇を開始。

 他にもレーザー誘導用の無人機や電子作戦機など、あらゆる無人の機体を伴い巡航ミサイル群と合流していく。


「もしかして突っ込む生身のプレイヤーって、おれとリディア大佐だけ?」

『他はあたしたちに敵機を近付けないように奮闘してるのよ』

「おれもできればそっちでスコア稼ぎたいんだけど……」


 不満を漏らしつつも、氷山で構成された輪形陣の中へと入っていく。

 靄の中の突入で360°フルスクリーンは真っ白の視界不良。

 普通なら計器を頼りに針路を取るが、優秀な人工頭脳SBDが擬似光学映像を投影し、標的を浮かび上がらせる。


 想像していた対空火器の応戦はない。

 ただただ目標めがけて巡航ミサイルと突き進んでいく。

 間もなく氷山空母ハバクックを視界に捉えられる距離となった時、


 視界から靄が消えて、


 おれは目を疑った。


「ちょ、待って! がいるぞ!?」

 

 そこにはれっきとした艦隊、


 空母打撃群が待ち構えていた。

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